一般財団法人 英語教育協議会
ELEC(エレック)英語研修所
  1. 新教育課程における外国語科の授業づくり ~釧路市の実態から考えられること~ 

新教育課程における外国語科の授業づくり ~釧路市の実態から考えられること~ 

評論2022.12.05

                         平木 裕

                     (釧路市教育委員会外国語教育アドバイザー

 

1 はじめに

昨年度末,「2021年度ELEC春期英語教育研修会」でお話しさせていただく機会を得た。今回は,その時と同じタイトルで本稿をまとめ,時点修正も加えながら釧路市の「これまで」と「これから」を論じるとともに,そこから見えてくる小・中・高等学校を通じた授業づくりについて考えてみたい。

 

2 「外国語教育アドバイザー」として

縁あって釧路市教育委員会でアドバイザーを務め始めたのは令和3年度の春。折しも中学校で新教育課程がスタートしたタイミングであり,平成29年改訂に関わった者として,その理念が実際の授業でどのように具現化されているのか,北海道の釧路という一つの地域に身を置き,日々学校を訪れて先生方や児童生徒とふれ合いながら肌で感じたいという思いからである。

 

全部で40ある市立学校(小・中・高等学校及び義務教育学校)を巡回指導訪問する3年間のミッションを開始するに当たり,釧路市教育委員会が「英語教育実施状況調査」(令和元年度分)を通して把握していた中学校の現状と課題を基に,「ゴール設定」から着手した。注目したのは,学習指導要領が初めて中学校に求めることとなった「英語で行うことを基本とする」授業の実態。そこに直結する「教師の英語使用」及び「生徒の英語による言語活動」,つまり学習指導に関する状況や,「学習到達目標の達成状況を把握している学校」「CEFR A1レベル相当以上の英語力」といった学習評価や成果に関わる状況についても,国が示す指標に照らして数値目標を掲げてみた。

 

トータルで言えば,「目的・場面・状況などに応じて生き生きと英語でコミュニケーションする児童生徒」をゴール・イメージとしたわけであるが,小→中→高といかにうまく「バトン」を渡していくか,という視点から学校を応援したいと考えている。

 

3 これまで取り組んできたことと地域の状況

新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される中,リモートによる全体研修からいよいよアドバイザー業務がスタートした。画面越しの研修では,まだ見ぬ先生方を相手に,「授業は英語で行うことを基本とする」こそが実は小・中・高に共通する授業づくりの考え方であることを強調しつつ,通底する共通キーワードは,「見方・考え方」にも盛り込まれている「目的や場面,状況等に応じて」というコミュニケーションの大前提であり,平成25年度の「学習指導要領実施状況調査」や同30年度の「全国学力・学習状況調査 英語予備調査」等においてすでにその具体例が示されていたことをお話しするとともに,初めて教科化された小学校の先生方を意識し,「CAN-DOリスト」形式での学習到達目標を設定することの目的や意義にも触れた。

 

業務の中心である巡回指導訪問は,特に小中連携の場とするためにもできれば中学校区単位で行いたいという思いはあったものの,まずは全ての市立学校での授業のようすをひと渡り把握することを目的とし,中学校を中心に小学校・高等学校等へもおじゃまするスタンスを取った結果,各中学校へは年間3回程度,小学校は1~2回程度といった1年目の訪問状況であった。

 

授業観察の視点は,新教育課程に求められることのうち「見方・考え方」「思考力、判断力、表現力等」「主体的・対話的で深い学び」の3点を中心に据え,事後協議もそういった面から意見や情報の交換をする場にしている。各授業者が自身の授業を客観的に振り返れるよう,学校ごとに「巡回指導カルテ」を用意しており,協議内容や次回に向けた課題等を訪問のたびに追記して共有してきた。

 

ある中学校の場合を例に,4回(①~④)の訪問で授業がどのように変化したかを示してみる。

 

 

お分かりのように,1回目の訪問当初は「とにかくもっと英語を使いましょう!」からスタートしたわけであるが,「宿題」は1点に絞り,それを次回訪問までの授業実践で意識することを求めた結果,2回目,3回目…と教師・生徒とも大きな変容を遂げてきた。こうした授業改善を下支えしているのは,前述した「授業は英語で行うことを基本とする」の趣旨,すなわち「生徒が英語に触れる機会の充実」と「授業は実際のコミュニケーションの場面」,もっとシンプルに言えば「生徒の英語による言語活動を中心に展開する授業」をイメージすることである。「言語活動」とは,「実際に英語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合う」などの活動のことであり,要は英語でコミュニケーションすることに他ならない。「言語活動を通して資質・能力を育成する」という小・中・高を貫くスタンスと併せて考えると,どの校種であれ,子供たちが英語でのコミュニケーションを楽しむことが全ての前提である,と言ってもよい。


このような認識を共有できる場が巡回指導訪問であり,訪問のたびに設ける協議において,ついさっき参観した授業を「ネタ」に授業者等とあれこれ「本音トーク」できるというのは,まさにアドバイザー冥利に尽きる。そうしたトークでは,つい教師の英語使用や指導法などに注目しがちであるが,それ以上に,児童生徒との英語でのコミュニケーションを楽しむ気持ちや,児童生徒どうしが積極的に英語でやり取りする姿,一人一人がたっぷりと英語に触れる姿をこそ,授業づくりの基本に据えたいと考えている。そこに思いが至った教師の授業改善には,無理のない柔軟性とスピード感がある。

 

ここで,全校への1回目の訪問を終えたあたりで見えてきた市全体の状況をまとめておきたい。

 

まず,市全体に共有したくなるような推奨すべき実践事例。小学校では,

・教師の積極的な英語使用(教室英語を含めて)

・テンポのよさ(活動間につながり)

・教師がALTと英語でやり取りする姿

・教師自身が授業や英語を楽しむ姿

・音声から文字へのさりげないつながり

・児童どうしがリアルに情報交換(互いの誕生日,好きな色,etc.

・日本語の介在や日英の置き換えを避ける工夫 など

といった教師や児童のようすがあげられる。


中・高等学校においては,

・原稿なしで即興的に対話(その場で発話)

・インフォメーション・ギャップのある言語活動

・「目的・場面・状況」を明確にした言語活動

・授業の入りが文法説明ではなく,内容を重視した生徒との問答から

・十分に言い慣れ聞き慣れた後で「書く」活動へ

・日本語を介在させないハンドアウトの工夫

・生徒との英語によるやり取りを通した本文の内容理解 など

といった工夫が確認された。

 

市内外の各種研修等でこうした事例を紹介するとともに,公開研究授業はその一例を参観者と共有できるものとした。

 

もちろん,こうした授業づくりがどこも順風満帆に進んでいるわけではなく,各校での課題点(端的には,上記のような状況になっていないケース)を明確にしながら改善に向けた支援を行う毎日である。実際の協議では,改善すべき点の具体に触れつつ,「ちょっとした工夫」で児童生徒の意識や動きが変わる可能性があること,いわば「スパイス」のきいた「コスパ」のよい改善策を一緒に考えたり示唆したりすることが多い。紙幅の関係でその具体例をここに示すことはできないが,いつも頭の片隅にあるのは,子供たちのよりよい姿を実現するための(おそらくどの教科等にも通ずる)授業イメージであり,それは,1単位時間の「学び」の流れや一つ一つの活動内容が,実生活でも「普通に」「当たり前に」やっていることかどうか,である。言い換えれば,全てをそのまま母語で行ったとしても違和感なくスムーズに自然に成立する授業,を頭に描いている。そうした「生活につながる」授業展開,三つの資質・能力に関わる「生きて働く」「未知の状況にも対応できる」「人生や社会に生かそうとする」を意識した授業展開こそが,大なり小なり「主体的・対話的で深い学び」の実現に資するのではないかと考えているし,「社会に開かれた教育課程」の一環となり得るものと信じている。

 

1年目(令和3年度)の終わり,同年度に実施された「英語教育実施状況調査」から,釧路市における一定の成果と重点化すべき課題が見えてきた。「教師の英語使用状況」は大幅に改善し,教師自身の意識が高まったことが分かった一方で,「生徒の英語による言語活動」は若干の伸びにとどまった。「英語で行うことを基本とする」授業の趣旨に合うよう,教師の英語使用をどう子供たちの英語使用につなげるか,がポイントとなる。さらに,同年度の「全国学力・学習状況調査」において,「英語の勉強は好きですか」に対する肯定的回答率の小・中間での差が全国平均を10ポイント以上上回っていることが判明した。

 

こうした状況に触れる中で,小学校から中学校へのより円滑な接続を図り,いわゆる「中1ギャップ」を生じさせないためにも,巡回指導訪問は中学校区単位で行い,校種間連携の場にしたいという当初の思いに立ち返ることとした。期せずして,アドバイザー2年目となる本年度,釧路市教育委員会が「小・中ジョイントプロジェクト」を立ち上げたこともあり,そうしたスタイルでの訪問を行いやすくなった。

 

このような経緯で生まれた新たな訪問パターンは,例えば,

      (午前)小学校で授業参観 ⇒(午後)中学校で授業参観 ⇒ 合同協議

という流れを基本とし,校区内の小・中の先生方が相互に授業を参観して意見や情報を交換する場となっている。そこには,互いを知り,「心の距離」が近付くチャンスはもちろんのこと,異なる校種だからこそ出てくる授業づくりのヒントがあふれている。以下にその一端を紹介しておきたい。        


 4 そしてこれから…

ここまで,アドバイザーという役割を生かして教師一人一人を支援してきたが,今後は,市内で学校相互が情報共有したり,教育研究会等が自主的に「勉強会」を開いたりなどすることにより,自律的に授業改善に取り組んでいける姿がイメージできる。つまり,新教育課程に求められる授業づくりがボトムアップでも進むような仕組みの確立が必要と考えている。

 

絶えず自らの授業実践をモニターしながら,定期的に,あるいは必要を感じたときにいつでも,中学校区等の主体で動いて小・中が「知恵」を出し合ったり授業を見合ったりする,そのような釧路市になっていくのを見届けたい。

(ひらき ひろし)

 

 

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