一般財団法人 英語教育協議会
ELEC(エレック)英語研修所
  1. 書評(久保野雅史):『リテリングを活用した英語指導ー理解した内容を自分の言葉で発信する』佐々木啓成 著

書評(久保野雅史):『リテリングを活用した英語指導ー理解した内容を自分の言葉で発信する』佐々木啓成 著

評論2023.03.16

 

久保野雅史(神奈川大学教授)

  

 

    本体  1,700円 

    A5判 160頁

    大修館書店


 

著者の佐々木氏は京都府立鳥羽高校に勤務する現職教員で、氏の著作『リテリングを活用した英語指導』は、202211月に(一財)語学教育研究所(通称「語研」)から外国語教育研究賞を授与されています。この賞は、すぐれた実践的研究論文または著書を公刊した個人・学校または団体を表彰し、賞金を贈ってその業績をたたえるものです。(賞の由来や歴史については、後ほど詳述します。)著者は月刊誌『英語教育』(大修館書店)で20224月号~9月号まで「教科書の語彙・表現・文法を活かす リテリングの極意!」と題する連載も担当されていましたので、連載記事や本書をお読みになった方も多いのではないかと思います。


評者は、受賞直後の202212月に英語授業研究学会(通称「英授研」)関東支部の例会(会場は文教大学)で著者の口頭発表を伺う機会がありました。リテリング(retelling)は、音声で意味内容を伝達する活動が大きな役割を果たしますので、著作を読んだときには「音声も併せて聞ければさらによく理解できるのに」という隔靴掻痒感を感じていました。しかし、対面での発表に参加することで霧が晴れたような気分になれました。しかし、発表時間がもっと長ければさらに詳しいお話しを伺えたのに、という思いが残ったのも事実です。そういった私の願いが届いたのかも知れません。間もなく開催されるELEC春期英語教育研修会で2023330日(金)午後に「リテリングを活用した英語授業」と題する対面研修が実現することになりました。

 ・リテリング指導におけるコア知識と指導の全体像

 ・リプロダクションからリテリングへと発展させる指導アイデア

 ・リテリングの評価

という内容の講義が、充分な時間をとって行われることになったのです。


前置きが長くなってしまいましたが、本書の内容に触れていきます。著者は本書を「指導する生徒の英語習熟度は様々ですが、たとえ上手に話せなくても、自分のことばで他者に内容を伝える喜びを経験させる指導を追求してほしい」と締め括っています。「自分のことば」と「内容を伝える」が外国語学習で不可欠な要素であることについて、語研のパーマー賞受賞者であり、文部省(現、文部科学省)で教科調査官も務めた新里氏は以下のように述べています。

 

生徒の「発言」をきちんと受け取ること。生徒は単語やフレーズで答えることが多いのですが、その際、教師がそれを受け入れ、フルセンテンスで言い直して確認するのです。(中略)大切なのは、授業を生徒の誤りをチェックするだけの場ではなく、可能な限り、英語で意味のやり取りをする場とすることだと考えます。(下線は評者による)

 

新里(2013) は、検定教科書の内容について「意味のやり取り」を行うことの重要性を指摘しているのです。この指摘と本書のねらいが符合していることは、本書の冒頭で著者が「(検定教科書の)本文の内容について話したり、書いたりする活動であるリテリングを導入することによって、産出技能の指導時間を増やすことができ、4技能統合型の授業実践が可能となります」と書いていることからも分かります。


本書は、以下の8章で構成されています。


1章 リテリングとは何か

2章 リテリングの手順(Ⅰ):内容理解

3章 リテリングの手順(Ⅱ):音読による内在化

4章 リテリングの手順(Ⅲ):発話情報の選定

5章 リテリングの手順(Ⅳ):英語への変換

6章 リテリングの手順(Ⅴ):発話

7章 どのようにリテリングを評価するのか

8章 リテリング研究から分かること


従来リテリングという用語は、Hill1980)のようにリプロダクション(reproduction)とあまり明確に区別せずに用いられることが多かったようです。(下線は評者による)

 

  Students woking independently will find the stories useful for reading comprehension and written reproduction.

  The teacher should itroduce the material by reading the story aloud, two or three times, while students listen with books closed.  Students may then be asked to retell the passage in their own words, either orally or in writing, or they may be asked to reproduce the basic story by answering the Comprehension Questions.

 

しかし、本書の第1章では、Longman Dictionary of Contemporary English6th editionの定義

 ・retell: to tell a story again, often in a different way or in a different language

 ・reproduce: to make something happen in the same way as it happened before

に基づいて、この二つを

 ・リテリング:再生活動+産出活動

 ・リプロダクション:再生活動

と整理することを提案しています。


また、著者はリテリングの手順をⅠ~Ⅴの5つの段階(Ⅰ 内容理解、Ⅱ 音読による内在化、Ⅲ 発話情報の選定、Ⅳ 英語への変換、Ⅴ 発話)に分け、それぞれに1章ずつを割いて第2~第6章で豊富な具体例を挙げて詳しく紹介しています。


3章では、リテリングにつながりやすい音読法として、Read and Look upを紹介していますが、ここではWest1960)の以下の主張に、「英語で黙読させる前に日本語で意味を与える」という手順を追加するなどの改変を施しています。(下線は評者による)

 

  He (= The pupil) has to carry the words of a whole phrase, or perhaps a whole sentence, in his mind.  The connection is not from book to mouth, but from book to brain, and then from brain to mouth.(中略)

  If your actual expressions vary from those of the book, that is all to the good.  In fact, as you become proficient, you deliberately paraphrase more and more, until eventually you are gathering the ideas from the book and expressing them in your own language.

 

リテリングを行うときにはキーワードやイラストなどの「手がかり」を提示しますが、第4章では、こういった「手がかり」を内容理解の前に与えて実施する「推測リテリング」という活動を新たに提案しています。評者が高校生を指導していたときは、リテリングを復習の活動と位置づけ、授業冒頭に前時の学習内容について、教科書を閉じた状態で「自分のことばで語る」活動として行っていましたので、著者のユニークな発想には少なからぬ驚きを覚えました。


5章~第8章についてもご紹介したい内容が満載なのですが、残りは本書を読む、あるいは春期研修会を受講する際の楽しみとして残しておくこととさせてください。


書評のまとめとして、著者が受賞した外国語教育研究賞の由来について紹介します。この賞は1996年に創設されたもので、語研の第8代所長であった伊藤健三氏(在任期間は19904月~19923月)のご遺志による寄付を基金とするため、「伊藤健三賞」とも呼ばれています。伊藤健三氏(19171995)は東京日本橋の生まれで、東京高等師範学校を卒業後、宮城県や東京都の旧制中学での勤務を経て、東京大学教育学部附属中学校・高等学校で長年勤務した後で立教大学に移り、実践面の豊かな経験と理論面の深い学識を兼備したすぐれた指導者として後進の指導に当たられました。その後は文教大学に移られて英語教員養成を担当されました。温厚な人柄で英語教育の発展に貢献され、『パーマー選集』『英語の研究と教授』の復刻の実現に尽力されました。


外国語教育研究賞の受賞者は数少なく、過去27年間(19962022年度)で下線の4件に過ぎず、奨励賞*を含めても11件のみです。以下は、過去の受賞作です。

 1997年度『語彙と英語教育(20)』

 1998年度『ライティングのための英文法』*

 2000年度『平成11年度施行 都中英研学力調査結果報告書2, 3年』*

 2001年度『アクティブ・スピーチ』*

 2003年度『コンピュータを利用した授業とその評価

       ―コミュニケーションの完成をめぐって―』*

     『中学校英語科 到達目標に向けての指導と評価』*

 2005年度『英語の発音・ルールブック』

 2011年度『若手英語教師のためのよい授業をつくる30章』

 2013年度『高校英語「授業は英語で」はどこまで』*

 2018年度『はじめてのオールイングリッシュ授業』*

 2022年度『リテリングを活用した英語指導』

(くぼの まさし)

 

<参考資料>

Hill, L. A.1980Elementary Stories for Reproduction, Oxford University Press

新里眞男(2013)「指導技術Q&A:英語教師として英語をどのように使えばよいのでしょうか?」『語研だより』287号、(一)語学教育研究所

West, Michael (1960) Teaching English in Difficult Circumstances, Longmans

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