[ELEC出前研修レポート]
熊谷市教育委員会 「ラウンド制授業-KUMAGAYA STYLE-の実施に向けた取組」

2016.01.27

ELECの出前研修-実際の授業を踏まえた研修や指導助言、専門家が継続的に学校を訪問‐

ELECでは2015年度より英語科教員の指導技術向上のために、求められる知識や技術を提供する「ELEC出前研修」(授業改善のための専門家派遣事業)を実施しています。英語教育の専門家(大学教授や教員研修指導経験者)が継続的に学校を訪問し、先生方の疑問・課題と実際の授業内容を踏まえた指導助言や研修を行っています。ELEC通信では、実際に出前研修を実施した学校の事例をご紹介していきます。

※当面の間、毎年申請のあった数校に対して講師謝金や旅費をELECが負担して、無料で研修を実施しています。応募等の詳細は出前研修のページをご参照ください。












2015年度ELEC出前研修を利用した、熊谷市教育委員会の事例を報告する。研修講師は、東京学芸大学名誉教授 金谷憲先生に担当していただいた。

 

1.熊谷市の授業改善

熊谷市では、平成28年度の市内全16中学校1年生から、ラウンド制の授業をスタートさせる。これは、熊谷市立熊谷東中学校が「外部専門機関と連携した英語指導力向上事業の委嘱」を受け、横浜市立南高等学校付属中学校の「横浜5ラウンドシステム」を手本として授業改善に取り組んだことが基となっている。


 2.ラウンドシステムとは?

熊谷市が今回取り組むことになった「ラウンドシステム」とは、教科書を1年間に何度も繰り返して使うことによって、英語の定着を図ろうとする取り組みである。横浜市立南高校附属中学校で実施され、同校では中1で5回、中2・中3では4回、同じ教科書を繰り返し使って大きな成果を上げている。


<横浜市立南高校附属中学校の5ラウンドシステム> 

どのラウンドでも、単に本文を詰め込むのではなく、内容に関する先生と生徒の英語によるやり取りをふんだんに行う。また、生徒同士もペアワークでクラスメートに本文を英語で説明したりして、英語の定着を図る。

このようにしてラウンドシステムを実施した結果、横浜市立南高校属中学校の生徒は中1の終わりには自分の英語でピクチャーカードによる教科書本文のreproductionがかなりの程度できるようになっている。また、同校のラウンドシステム1期生は現在高1で高校の教科書も3ラウンドで学んでおり、11月に行われた公開授業では、既に2ラウンド目から3ラウンド目に入ろうとしていた。


3.ラウンドシステムの効果 - 生徒の気づき・量に負けない生徒が育つ 

熊谷市では、昨年度、1校が4ラウンドに取り組み始め、本年度は、市内3校が新たに加わって、先進校としてラウンド制の授業に取り組んでいるところだが、その成果が出てきている。

1つめは「生徒の気付き」生徒は教科書を繰り返し学習する中で、1回目で気付かなかった、言葉のルールや教科書本文の内容に関することなどに、2回目、3回目で気付きはじめる。まさに「教師が説明する」授業から「生徒が見付ける授業」に変わってきているのである。

2つめは「量に負けない生徒」が育っていること。ラウンドシステムの授業では、スモールステップを踏みながらたくさんの英語を聞いたり、読んだりした後、自分の言葉で話したり、書いたりという活動になる。英語を「話すこと」「書くこと」については、はじめから正確性を求めるのではなく、「まずはたくさん話してごらん」「次に話せたことを書いてごらん」というように発話量や書く量を意識させ、その後コレクションを行いながら文の精度を高めている。このような「量から質へ」という指導が、生徒の英語に対する高いモチベーションを維持することにつながっていると考える。


4.出前研修の様子

出前研修では、金谷先生を中心に、横浜市立南高校属中学校教諭 西村秀之先生にもご協力いただいた。

8月に悉皆で、横浜市立南高校属中学校の取り組みのDVD(熊谷市の各中学校に1セットずつを配布して学校単位でも準備が出来るようにしている)を用いて、ラウンドシステムの進め方や評価の仕方を学んだ。

・11月には南高校と同属中の公開授業に本市教員が多数参加し、実際の授業を見学した。

・12月の研修では、教員2人が第1ラウンドと第2ラウンドのマイクロティーチング(短時間に研修参加者を生徒に見立てた模擬授業をし、直ぐにそのビデオを見て、ディスカッション、必要に応じた変更をして、再度模擬授業を行う)を実施。後半は西村先生に、試験や評価をどのように進めているのか、実際に使用した試験や資料を提示しながら解説していただき、ラウンドシステムについての理解を深め、来年度からの実施の準備をしているところである。

 

5.実施に向けて

全市をあげての新しい試みを進めるため、担当者である岡村指導主事は研修の設定、先生方への情報提供、資料の共有等、準備に奔走している。「熊谷市は2019年のラグビーワールドカップ開催地となっています。海外からお越しになるたくさんの方々を、自信をもって英語を使う子供たちと共に『おもてなしの心』をもって迎えたいと考えています。」と岡村指導主事は語った。

 

(文責 ELEC教員研修部)