[ELEC英語教育賞 受賞校取組] 京都教育大学附属桃山小学校
「英語コミュニケーション能力」の向上のための5領域の系統的指導を目指した外国語活動の拡充及び外国語科の創設

2018.05.09

2017年度ELEC英語教育賞 ELEC理事長賞を受賞した京都教育大学附属桃山小学校の取組を紹介します。


1.取組前の課題                                     

 京都教育大学附属桃山小学校(以下「本校」と称す)は、旧来より国際理解教育の一環として外国語に触れることを目的として、第1学年から月1~2回程度英語活動に取り組んできた。しかし、学習内容については文部科学省学習指導要領における「外国語活動」の内容を充実させることを目指した教育課程を組んでおり、発展的な活動については行っていなかった。
 近年、グローバル化の進展が目覚ましく、異文化のルーツを持つ人々と協働して問題解決に当たるため、英語教育の高度化が求められている。またこの社会的背景が小学校学習指導要領の改訂にも影響を与え、小学校における英語教育の早期化や高度化が叫ばれるようになった。同時に、小・中・高等学校の学習の連携も叫ばれるようになり、英語教育の一貫した目標や内容の充実・高度化が必須のものとなってきた。
 このような情勢を受け、本校では、これまでの外国語活動の取り組みを発展させる形で教育課程を見直し、英語コミュニケーション能力を向上させるためのより系統的かつ効果的な指導方法及び内容を研究することが必要であると考え、文部科学省より研究開発指定を受けるに至った


2.目標としたこと                                    

 英語教育の高度化にあたり、以下4点の改善目標を設定した。

 1)英語教育全体の一貫性や連続性を担保するため、近接する附属桃山中学校・附属高等学校と連携し、小・中・高等学校の一貫した学習到達目標(Can-Do評価)を設定する。

 2)作成した小・中・高等学校の学習到達目標をもとに、小学校の発達段階に合わせた学習到達目標を設定するとともに、CEFR-Jの考え方をベースとした5つの領域に分割した詳細な到達目標を設定する。

 3)作成した詳細な到達目標を日々の学習に落とし込み、コミュニケーション活動に中軸を置きながらも、5領域を効率的かつ効果的に指導する方法を模索する。

 4)外部試験や児童へのアンケートを実施し、指導方法の妥当性や児童の英語力向上を確認する。


3.具体的な活動内容                                   
 1)英語教育における「子どもに育むべき資質・能力」の設定 

 教育の中において「英語」に求められるものは、ただの「翻訳できる力」ではなく、国際共通語として使われ、相手が英語のネイティブスピーカーかどうかに関わらず、英語を用いて異言語・異 文化をルーツとする人々と意思疎通を図るための「コミュニケーションツールとしての英語」である。つまり、英語を使いながらも自己表現をする力や英語を活用するために必要なコミュニケーションを図ろうとする態度や技術も同時に求められる。そこで英語教育改革に向けて、その基盤となる「子どもに育むべき資質・能力」について、以下の4点に整理した。


【外国語を通して子どもに育成すべき資質や能力】
1. 異文化を理解し、自国の文化との違いを理解する『文化理解』の能力
2. 異文化を背景に持つ人とコミュニケーションを取るための「ツール」としての一定の『英語運用能力』
3. 文化的背景の違いを理解した上で、コミュニケーションを図る相手のことを意識し、歩み寄 ろうとする『相手意識』の態度

4. 1~3を統合的に育成することで獲得される『英語コミュニケーション』能力


 2)CEFR-Jをベースにした小・中・高一貫した学習到達目標の設定

 本研究では、児童に求められる英語コミュニケーション能力における技能を、いわゆる4技能(Listening, Speaking, Reading, Writing)の中の「話すこと」について、人との相互のコミュニケーションである「やりとり (Interaction)」 と一方向のコミュニケーションである「発表(Production)」に区別にし、5領域で示すようにした。これは、多くの言語が飛び交うヨーロッパにおいて、母語以外の言語を学習する際に用いられる「外国語学習、教授、評価のためのヨーロッパ言語参照枠 (Common European Framework of Reference for Languages: Leaning, teaching, assessment, CEFR)」がそのもととなっており、次期学習指導要領においてもCEFRに合わせる形で5つの領域の一体的な指導が示されている。また、新たに設定された5領域について、「英語を使って何ができるようになるか」という視点から, CAN-DO形式で学習到達目標を設定すること求められている。本研究では、上述の内容を踏まえ、小学校から高等学校に至るまでの12年間の英語コミュニケーション能力に関わる5つの領域について、各学年の終末段階での状態をCan-Do形式で記載した学習到達目標表を作成した。(表1) この表は英検などの外部試験との関係性も示しており、具体的な英語能力の位置づけを明確にしているという特徴を持っている。


図1 英語コミュニケーション能力の構造図

 


表1 小・中・高一貫した学習到達目標


 3)小学校の発達段階に合わせた詳細な学習到達目標の設定

 12年間の学習到達目標は、各学年の終末における状態を端的に示したものであり、具体的な状態についてはさらに詳細な到達目標を設定し、段階ごとの達成状況を踏まえた学習単元づくりを行うことが必要となる。そこで、2に示した小・中・高等学校の一貫した学習到達目標を踏まえ,例えば発音や内容,取り上げる話題など、コミュニケーションにおいて必要となる様々な条件について領域ごとにさらに分化させ,詳細な小学校独自の到達目標表を作成した。(表2)


表2 小学校における学習到達目標


 4)5領域の系統的な指導に関する具体的実践

 作成した詳細な学習到達目標を基に、外国語活動・外国語科の具体的な学習単元を設定し、実践を行った。ここでは、その例と取組の一部を紹介する。


 i.  英語教育における「子どもに育むべき資質・能力」の設定
教育の中において「英語」に求められるものは、ただの「翻訳できる力」ではなく、国際共通語として使われ、相手が英語のネイティブスピーカーかどうかに関わらず、英語を用いて異言語・異 文化をルーツとする人々と意思疎通を図るための「コミュニケーションツールとしての英語」である。つまり、英語を使いながらも自己表現をする力や英語を活用するために必要なコミュニケーションを図ろうとする態度や技術も同時に求められる。そこで英語教育改革に向けて、その基盤となる「子どもに育むべき資質・能力」について、以下の4点に整理した。


【外国語を通して子どもに育成すべき資質や能力】
  1. 異文化を理解し、自国の文化との違いを理解する『文化理解』の能力
  2. 異文化を背景に持つ人とコミュニケーションを取るための「ツール」としての一定の『英語運用能力』
  3. 文化的背景の違いを理解した上で、コミュニケーションを図る相手のことを意識し、歩み寄 ろうとする『相手意識』の態度

  4. 1~3を統合的に育成することで獲得される『英語コミュニケーション』能力


 ii. CEFR-Jをベースにした小・中・高一貫した学習到達目標の設定

本研究では、児童に求められる英語コミュニケーション能力における技能を、いわゆる4技能(Listening, Speaking, Reading, Writing)の中の「話すこと」について、人との相互のコミュニケーションである「やりとり (Interaction)」 と一方向のコミュニケーションである「発表 (Production)」に区別にし、5領域で示すようにした。これは、多くの言語が飛び交うヨーロッパにおいて、母語以外の言語を学習する際に用いられる「外国語学習、教授、評価のためのヨーロッパ言語参照枠 (Common European Framework of Reference for Languages: Leaning, teaching, assessment, CEFR)」がそのもととなっており、次期学習指導要領においてもCEFRに合わせる形で5つの領域の一体的な指導が示されている。また、新たに設定された5領域について、「英語を使って何ができるようになるか」という視点から, CAN-DO形式で学習到達目標を設定すること求められている。本研究では、上述の内容を踏まえ、小学校から高等学校に至るまでの12年間の英語コミュニケーション能力に関わる5つの領域について、各学年の終末段階での状態をCan-Do形式で記載した学習到達目標表を作成した。(表1) この表は英検などの外部試験との関係性も示しており、具体的な英語能力の位置づけを明確にしているという特徴を持っている。


 iii. 小学校の発達段階に合わせた詳細な学習到達目標の設定

 12年間の学習到達目標は、各学年の終末における状態を端的に示したものであり、具体的な状態についてはさらに詳細な到達目標を設定し、段階ごとの達成状況を踏まえた学習単元づくりを行うことが必要となる。そこで、2に示した小・中・高等学校の一貫した学習到達目標を踏まえ,例えば発音や内容,取り上げる話題など、コミュニケーションにおいて必要となる様々な条件について領域ごとにさらに分化させ,詳細な小学校独自の到達目標表を作成した。(表2)


○海外からの交流学生とともに学習を行う取組(第1学年)

 本校は約20年にわたり、南オーストラリア州アデレード市内のベレア小学校と交流活動を行っており、隔年で40名程度が約2週間ホームステイをしながら共に活動に取り組んでいる。
 本取組は、第1学年の児童が羽子板や坊主めくり、福笑いなど、日本の伝統的な遊びを一緒に楽しむ活動を実施した。第1学年であり、活用できる語彙は少ないものの、挨拶や自己紹介を行ったり、遊びを紹介する際にも、実際にやり方を示しながら"Your turn." "nice"など1~2語程度の簡単な表現を使いながらデモンストレーションをしたり、声掛けをするなどやり取りをしたりしながら楽しむ様子が見られた。


○アルファベットに慣れ親しみながら英単語を作る活動(第4学年)

 本校では、第3学年にローマ字を学習することを踏まえ、中学年段階でアルファベットの大文字と小文字を学習するよう設定した。特に第4学年では主として小文字を中心に学習に取り組み、大文字との弁別を行ったり、アルファベットを書き写したりしてみる活動にも取り組んだ。また、身の回りにある小文字のアルファベットを探したうえで、"pen"や"eraser"など、身の回りの物をアルファベットのカードを集めて並び替え、単語づくりにも取り組んだ。児童は、ローマ字読みと英単語の文字の並びや読み方の違いなどをALT に確認しながら、英語の単語に慣れ親しんでいく様子が見られた。特に、英和・和英辞書を学級に数冊用意しておくと、興味をもって辞書で単語を調べたり、書き写したりしている姿が見られた。

○即興性のある「やりとり」の活動(第5・6学年)

 電子黒板に映されたお題を説明者が見て、そのお題について英語やジェスチャーを使って説明し、回答者が20秒以内に答えにたどり着けるかという"Guess what?"ゲームを行った。上手く伝わった児童の説明を全体で共有したり,回答者から答えにたどり着いた一番大きなヒントについて聞いたりしながら、どのような説明をすればより伝わるのかを学んだ。徐々にではあるが、慣れ親しんだ表現を会話に活かそうとする姿も見られるようにな り、即興で説明する楽しさも味わう姿が見られた。また、回答者側からも質問をしたり、答えを探し出そうと必死になったりする姿も見られ、ゲームを通してこのようなやり取りを行っていく姿も見られた。

○自分の思いや考えを伝えるプレゼンテーション
○慣れ親しんだ表現を使ったモデル文を読む活動
○単語や文を書き写しながら伝えたいことを文にする活動(第5・6学年)

 高学年では、慣れ親しんだ表現を使いながら自分で単語を組み替えたり、表現を付け加えたりしながら自分の思いや考えを伝えるプレゼンテーション活動に取り組んだ。
 特にプレゼンテーションを作るときには、指導者が示すモデ ル文を参考に自分の作品を作るようにした。その際、モデル文をALTと一緒になぞり読みをし、音読の練習をすることで、単語の音と文字とのつながりを意識できるようにした。また、いくつかの例を示しながら学習を進めることで、モデル文のどの部分を変えると自分の思いを伝える作品に変えることができるかを理解できるようにし、語順や単語の役割(品詞的な要素)にも目を向けられるようにした。作品を作る際には、モデル文を書き写しながら適宜必要な部分を変えたり、付け加えたりする作業を行い、「書き写す」活動にも取り組んだ。「読む」ことや「書くこと」に不慣れな部分も多いが、口頭のやり取りから文面をつかってのやり 取りへの段階的な移行として児童も非常に高い学習意欲を示していた。


○Can-Doリストを活用した児童のふりかえりシートの活用(全学年)

 全ての学年を対象に,毎時の主たる活動について、事後の振り返りの中で具体的な達成度を示す4段階のCan-Doリストを作成し、それを自己評価する形式をとるようにした。子どもたちは各取り組みの中で「今自分がどの程度できているか」を振り返り、チェックするとともに、学習の中での言語や文化に関する気づき、質問等を自由記入欄に記述できるようにした。自分自身の活動を具体的に振り返りながら、次はどんなことに挑戦したいかや、うまくやり取りができるようになったこと、日本語と英語との言語的・文化的な違いへの気付きについて多くの記入が見られるようになった。また、指導者への質問なども 多く書かれており、具体的な気づきや質問などがあった際は、次時の最初に全体へフィードバックするようにした。
 Can-Doリストを作成することで、授業を設計する際に、具体的にどのような姿を求めているのかを文言で考えることができ、授業の「あいまいさ」をなくすことができるとともに、指導者としてどのような姿を子どもたちの中から見取ればよいのかを明確にすることもできたと考える。



4.得られた成果・今後の課題                               

○外部試験の結果

 外国語教育の高度化に伴い、変更したカリキュラムの妥当性や児童の英語運用能力の向上が図られたかどうかを検証するため、英検Jr(元児童英検)Silverを第3学年以上の全児童(269名)に実施した。平成26年度末実施の結果では、全体の平均は83.97点であり、全国平均81点よりも上回っていた。また、学年を経るごとに点数が上がってきていることから、一定の英語力の向上が見て取ることができる。当該テストは一般的には任意のものであり、英語学習に関心が高い児童が主体となって受検していることが想定される。そのため、在籍する全児童を対象に実施した本校の試験結果が一般の平均点より上回っており、また第6学年に関して言えば一般平均点より9点近く上回っているのは、第1学年からの学習の蓄積が明確に成果として表れた結果であると考えることができるだろう。


○児童へのアンケートから

図2


図3


 本研究による児童の情意面等の変化を見るため、毎年1学期末及び学年末にアンケートを実施した。図2・3は 2017年度7月に第3学年以上を対象に実施した結果である。
 英語の学習に対し、どの学年においても85%以上の児童が肯定的な回答をしており、特に高学年は87.0%が肯定的回答をしている。これは第5・6学年を対象にした「小学校外国語活動実施状況調査(H26)の回答(70.9%)より高く、本校の児童の英語学習への好感度が高いことがわかる。
 また、図3は英語学習の重要性について問うた結果である。当該設問においても、90%以上が肯定的に回答しており、特に高学年では94.2%の肯定的回答がなされており、同文科省調査の結果(85.3%)よりも高い数値が得られた。
 本研究を通して、児童が外国語学習に対して高い学習意欲を示しており、また外国語を使うことへの重要性についても理解していることが見て取れた。同時に、外部テストの結果から、学習意欲だけではなく、実際に学習内容の定着や活用ができていることも理解される。このことから、本研究が児童の外国語学習に対して一定の効果を出すことができていると結論付けることができるだろう。
 今後も,本研究を継続させながら、本校で英語を学んだ児童が中学校・高等学校に進学したときの英語の学習状況や学習到達の状態を追跡していくことで、本研究の成果と課題をさらに明らかにしていくことが必要であると考える。


(2017年度ELEC英語教育賞を受賞した京都教育大学附属桃山小学校の申請書を編集して掲載しました)