一般財団法人 英語教育協議会
ELEC(エレック)英語研修所
  1. スピーチにおける聞き手への指導  ―アクティブリスナーを育てる―

スピーチにおける聞き手への指導  ―アクティブリスナーを育てる―

評論2021.04.28

ELEC同友会英語教育学会研究活動 ③

(実践研究部会より)

本多敏幸(千代田区立九段中等教育学校講師)

 

1 はじめに

 英語によるスピーチは,何十年も前から中学校や高等学校の授業で行われてきている活動である。教師にとっても生徒にとってもとても馴染みのあるものと言えるだろう。そして新しい学習指導要領においても,スピーチやプレゼンテーションなどの言語活動を行うことが明記されている。中学校学習指導要領(平成29年告示)の「(3) 言語活動及び言語の働きに関する事項 ①言語活動に関する事項」の「オ 話すこと[発表]」には,「() 日常的な話題について,事実や自分の考え,気持ちなどをまとめ,簡単なスピーチをする活動」と設定されている。また,高等学校学習指導要領(平成30年告示)の「英語コミュニケーションⅠ」の同事項には,「() 身近な出来事や家庭生活などの日常的な話題について,使用する語句や文,発話例が十分に示されたり,準備のための多くの時間が確保されたりする状況で,情報や考え,気持ちなどを理由や根拠とともに話して伝える活動。また,発表した内容について,質疑応答をしたり,意見や感想を伝え合ったりする活動」と設定されている。

ELEC同友会英語教育学会実践研究部会では,19975月より「中・高連携を考えたスピーチの指導」の研究を行ってきた。その研究成果については,『スピーチ指導ビデオ アクティブスピーチ(以下,『アクティブスピーチ』)』(2001TDKコア株式会社)及び『中学校・高校英語 段階的スピーキング活動42(以下,『スピーキング活動42』)』(2008,三省堂)にまとめている。まず,両書の内容について簡単に紹介したい。『アクティブスピーチ』は,テキスト及びビデオテープ2本で構成したものである。テキストには「中・高連携を考えたスピーチの指導計画表」「原稿指導」「話し手への指導」「聞き手への指導」「評価」「スピーチ例」などを載せている。ビデオテープには,モデルスピーチ及び話し手の態度の指導方法,聞き手をactive listener(積極的な聞き手)に育てるための指導方法などを映像で紹介している。実践研究部会の部員が勤務している学校の生徒に協力してもらい,中学と高校のスピーチを収録している。『スピーキング活動42』は,『アクティブスピーチ』とその後の研究を総括したものである。本書には,中・高6年間のコミュニケーション活動計画と言語活動例(インタビュー活動,スピーチ,チャット,レポーティング,ディスカッション,ディベートなど)を載せている。

『アクティブスピーチ』及び『スピーキング活動42』は古い書籍ではあるが,その内容は新学習指導要領に書かれていることに通じている。現在,両書とも入手が困難になっている状況から,その中のスピーチにおける聞き手への指導について取り上げ,紹介したい。

 

2 聞き手への指導の大切さ

実践研究部会では,スピーチ活動を行う際,聞き手への指導を1997年の研究開始当初から重要だと考えており,このことを1で述べた両書にも載せている。前述した高等学校学習指導要領の解説にも,聞き手の指導について「発表した後に,生徒同士が,内容や発表の仕方についてどのような点がよかったかなどの感想や意見を伝え合うことも効果的である」と記されている。本部会では,発表者だけに指導の焦点を当てるのではなく,聞き手にも適切な指導を段階的に行っていくことが重要だと考えている。『アクティブスピーチ』の「聞き手への指導」の前書きに次の言葉を載せている。

 

教室において良いスピーチを成立させるためには,単に話し手の指導だけではなく,聞き手の指導も大切です。話し手が良いスピーチをしようと張り切って教室の前に立ち,話し始めても,聞き手が全く興味を示さなかったり,隣の人と私語を交わしているようでは意欲を失います。

良い聞き手がいてこそ,良いスピーチが生まれます。教師は話し手の指導だけでなく,聞き手をactive listener(積極的な聞き手)に育てることの大切さも忘れてはいけないのです。(p. 36

 

さらに,『アクティブスピーチ』には,聞き手への指導を行う主な目的や効果を3つ示している。該当部分を要約して以下に載せる。

ア 人の話を聞くことは学習の基本であり,どの生徒にも,その基本的な態度や方法を習得させ,聞き方を上手にする必要がある。

イ 聞き手に意識をもたせることで,聞き手が話し手の立場になったときに,聞き手の気持ちを考えたスピーチができる。

ウ 話し手にとって熱心に聞いてくれる聞き手がいることで,話しやすく意欲をもってスピーチをするようになり,その結果,授業がより生き生きとしたものになる。

以上のことは,これまでも,そして今後も重要な点であると考える。

 

3 聞き手の態度の指導

 以下,『アクティブスピーチ』に書かれている聞き手への態度の具体的な指導について,少し修正を加えながら紹介したい。

集会などで教師の話を聞くとき,生徒には「静かに黙って先生の顔を見ること」「おしゃべりをしないこと」「体を動かさないこと」などの指導をしているだろう。それでは,授業におけるスピーチでは何が必要だろうか。人の話を聞くときの態度については,スピーチであろうが旅行ガイドの話を聞く場面であろうが基本的には一緒であろう。「話し手を見て,静かに話を聞く」ことが基本である。また,授業で行われるスピーチということを考えると,「不必要に笑ったり茶化したりしない」ということも大切である。このような基本的なことができないと,日常の授業も成立しないだろう。場合によっては,スピーチを聞く際,どのような態度が相応しいのかを生徒同士で話し合わせるとよい。生徒同士で話し合わせた方が,教師側からの押し付けという印象を与えずに済み,生徒の意識付けを行うには効果的である。小学校に教科としての外国語科が設定されたので,スピーチを聞く際の態度については多くの小学校で指導されていると思われる。中学校では,1年生で最初にスピーチを行う際に基本的な態度について指導しておきたい。

 では,本題の「アクティブリスナーを育てる」方法について,『アクティブスピーチ』の該当部分(pp. 36-37)を引用して紹介する。

 

  聞き手にスピーチの内容や話し手の態度を評価させるために,リスニングシート(ピア評価シート)を使って指導することがよくあります。しかし,聞き取りのポイントを多く出したり,あまりに細かすぎる評価をさせることは適切ではありません。評価表の内容は要点を押さえたもので,記入はスピーチが終わってからさせましょう。スピーチが行われている最中には,スピーチの内容に集中させ,聞き手が話し手を聞いているというサインを出すようにして,行われているスピーチを盛り上げるよう指導します。「聞いているというサイン」は次の2つが考えられます。

 ① eye contact

  これは話し手にはよく言われることですが,当然,聞き手にも必要です。話し手にeye contactを指導しても,聞き手に指導しなければeye contactは成立しないからです。実は,スピーチに慣れていない初期の段階では,全員から見られるのは恥ずかしいという生徒も多くいます。そこで,練習の段階でペアまたはグループで練習を行わせながら,目を合わせることに慣れさせていきます。

  話し手と目を合わせたら手を挙げるなど,本番では不自然なことですが,有効な練習方法もあります。

 ② うなずく,首を振る,などのジェスチャー

  聞き手が納得したらうなずくことで,話し手にはとても励みになるものです。どんなにおもしろいことを言っても何の反応もない状態では,自分の言っていることを理解していないのではないかと,話し手は不安になってしまいます。もちろん過度に行うことは,話し手を茶化すことにもなりかねないので,自然にできるように注意をしておく必要があります。

 

4 聞き手に行わせること

 『アクティブスピーチ』では,「聞き手に行わせること」として,スピーチの最中には「メモを取る」及び「評価させる」の2つ,スピーチの後には,「聞き手から話し手へ質問する」,「聞き手にスピーチの内容をレポートさせる」及び「聞き手に意見や感想を述べさせる」の3つを提案している。それぞれについて『スピーキング活動42』も参考にしながら簡単に説明する。

(1) メモを取らせること

 メモの取り方も聞き手にとって大切な技術の1つである。メモした内容をもとにして話し手に質問したり,内容に関するレポートを書かせたり,感想や意見を述べさせたりなどの活動へと広げることができる。単に「メモを取りなさい」と指示するのではなく,学習段階に応じて,聞き取るポイントを前もって1つだけ指定したり,聞き取るポイントを2つにしたり,話し手が一番伝えたいことの要点を書きとらせたりなどと設定することができる。ただし,メモを取ることに夢中になると話し手を見なくなるので,できれば,スピーチを終えた後に書かせるとよい。

メモの取り方については,次のコツを生徒に紹介する。

・聞いたことをそのまま文でかくのではなく,語句で書き留める。

・5WHなど,重要な情報のみ書く。

・長い単語は一部のみ書く。自分が理解できればよい。(例)September Sep

・つづりの誤りは気にしない。つづりがわからない場合にはカナで書いてもよい。

・関連していることは線で結んだり,記号を使ったりするなど,自分で工夫する。

(2) 聞き手にスピーチを評価させること

 聞き手に評価させることにより,聞き手のスピーチに対する意識を高めることができる。その目的として以下の4つを挙げている。

 ア 聞き手にしっかりとスピーチを聞かせる。

 イ 話し手の良い点を学ばせ,自分が話し手になったときに,その長所を活かせるようにさせる。

 ウ 話し手に適切なアドバイスをすることで,聞き手と話し手が一体となってスピーチの授業を成立させる。

 エ 教師の視点だけではなく,生徒の視点から話し手を評価することで,教師の気づかない新しい発見をする機会とする。

 なお,評価を書かせるタイミングは個々のスピーチ終了後とする。

(3) 聞き手から話し手へ質問させること

 授業で行うスピーチ活動は,聞き手に発話の機会を設けることによって,話し手から聞き手への一方的な情報伝達の活動ではなく,双方からのコミュニケーション活動と位置付けることが可能になる。このことはアクティブリスナーを育てることにもつながる。最もよく行われる活動は,スピーチの後に聞き手が話し手に内容に関する質問をすることであろう。適切な質問をすることは難易度の高い言語活動である。教師が例を示したりしたり,近くの生徒と質問内容を相談させたりしながら徐々にできるようにさせていく。なお,授業の中で基本的な口頭練習を行ったり,チャットなどのインタラクションを行ったりすることも質問ができるようになるためには必要なことである。

(4) 聞き手にスピーチの内容をレポートさせること

 初期の段階では,スピーチの内容で覚えていることをレポートさせるとよい。1人称で述べていることを3人称に変換するなどの練習が事前に必要となる。慣れてきたらスピーチの概要をレポートさせる。メモをもとに述べさせてもよい。

(5) 聞き手が意見や感想を述べること

 この活動も難易度が高い。意見や感想を述べるのに必要な表現を指導したり,聞き手同士で意見や感想を述べ合わせるなどの段階を踏んだりする必要があるだろう。意見や感想を述べる際には(4)で述べたレポーティングを利用するとよい。話し手が言った部分を繰り返してから,それに関する自分の意見や感想を述べるという構成である。

 

5 さいごに

 『アクティブスピーチ』及び『スピーキング活動42』の各スピーチ例には,指導目標や指導手順のほかに,聞き手に対する指導内容の項目を設けている。その記述例を以下に示す。

・話し手の顔を見て聞く。

・話し手の言うことを集中して聞く。

・話し手とeye contactがとれるように顔を挙げて話し手を見る。

・各スピーチの後で,評価表やコメントカードを書く。

・内容が理解できているかいないかを顔の表情で表す。

・内容に関する質問を考えながら聞く。

・うなずきや顔の表情で,話し手に対して自然な反応をする。

・評価をスピーチ終了後に書く。良い面を認める評価をする。

・リラックスした状態でも,基本的なマナーをもって話し手に集中する。

・話し手のデリバリーに注目し,良い点を自分のスピーチに生かす。

・要点を聞き取る。

・スピーチの要点をメモする。ただし,素早く行い,ずっと下を向いていることのないようにする。

・スピーチの要点を意識しながら聞き,質問を考える。質問は,スピーチの中で聞き逃したことを聞いてもよい。

・自分の意見と比較しながら聞く。

 

話し手が話しやすい雰囲気づくりはスピーチだけにとどまらず,授業全体において大切なことである。そのためにもこれらの態度が自然にできる生徒を育てるための段階的な指導が必要である。今後も,実践研究部会で,具体的な指導方法について開発していきたい。

(ほんだ としゆき)

 

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