一般財団法人 英語教育協議会
ELEC(エレック)英語研修所
  1. 研ぎ澄まし磨く、音声表現力

研ぎ澄まし磨く、音声表現力

評論2021.03.01

ELEC同友会英語教育学会研究活動 ②

(音声指導研究部会より)

田中敦英(桐朋中学・高等学校教諭)

はじめに

 ELEC同友会音声指導研究部会は2001年に発足しました。島岡丘氏(筑波大学シニア・プロフェッサー)が下村勇三郎会長(当時)の打診を受け、「音読指導研究部会」として立ち上げたのが始まりです。2003年度に「音声」指導研究部会と改称し、英語の指導における音読・発音・音声表現をめぐる様々な側面について、理論と実践のバランスを取りながら研究を進めてきました。本稿では、その足跡と研究についてご紹介します。キーワードは「スーパーネイティヴ」と「音読学」です。

 

 

1. 日本人英語教師こそ「スーパーネイティヴ」になれる?!

 2000年代前半の活動報告では、部会の3つの目的が次のように挙げられています。

 

・教育現場の英語音声指導に役立つ指導法を研究すること。

・英語音声に対する学問的な理解を深め、音声学・音韻論に親しむこと。

・部員が互いに英語音声に関する技能を高めあい、明瞭でよく通じる発音能力を持ち、国際語としての英語(English as an International Language)を自信を持って音声表現できる「スーパーネイティヴ」の域へと達すること。

 

 「スーパーネイティヴ」とはなんともambitiousな印象ですが、これは島岡(2004)の著作『日本語からスーパーネイティヴの英語へ』から取ったものです。日本語・英語の共通点と相違点をしっかり捉え、自信を持って発音できるようになれば、一般の英語ネイティブスピーカーをも超えた発音をすることさえ可能だ、という島岡氏の思いのこもったワーディングと言えます。

 一歩進めて考えると、この「スーパーネイティヴ」という考え方は、日本人教師が音声面での造詣を深めていけば、英語母語話者が果たし得ない役割を学習者に対して果たし得るということでもあります。すなわち、

 

 ・生徒の音の間違いを正確にトレースした上で、正しい音と比較して提示できる

 ・日本人学習者が不得手としがちな音声上の特徴(例:recentlyglassなどの子音連結や、one of theなどの機能語の弱化など)を理解し、修正できる

 ・日本語の中に隠れている英語らしい音(後述)を活用して学習者に自信を持たせることができる

 

このような能力をもった教師になれる可能性があるということです。筆者は、この「スーパーネイティヴ」という表現に驚きつつ、それが大言壮語になることのないよう、自らの音声表現力を鍛えねばと身が引き締まったことを鮮烈に覚えています。

 

 

2. 新たな分野「音読学」

 音声指導研究部会は、成立の経緯もあり、島岡氏を研究面の支柱とし、音読指導・音声指導にまつわる実践研究とその発表を続けてきました。新たな研究の軸ができたのは2007年度。島岡氏が新たに提唱した「音読学」という考え方がきっかけでした。

 音読学とは、教室での音声指導に必要な音声学と、音読活動の技法とを融合させ、単に「読める」だけでなく表情豊かに「音声表現する」ための考え方です。より具体的には、音声による表現を

 

 内容理解 + 音声学的な実現 + 読者の理解と感情による表出

 

と捉え、各々の要素がどのように影響しあうのか、表現力を磨くためにはどのような方法があるかについて、実践を踏まえて研究していく分野だと言えます。

 2007年度以降の音読学を巡る研究とその概要のうち主なものを、研究大会要項に掲載の活動報告よりご紹介します。音読学研究の幅広さを感じていただけるのではないでしょうか。

 

2009年度 「正しい意味を伝える音読学の具体化のために」

 認知言語学の知見を取り入れ、形式・意味と音声表現を組み合わせる必要性を強調。

2011年度 「日本語の中の英語音 100選」

 日本語語句の中に隠れている英語音をユーモアを交え紹介、授業での使い方も提案。

2014年度 「歌詞に命を吹き込む音読学」

 名曲Let It Goを音読学の視点から多角的に分析し味わい朗読実演。

2017年度 「温故知新音声学と英語教育に道を開いた明治の草分け「岡倉由三郎」の足跡をたどる」

 明治から昭和にかけて語学・文学の分野で活躍し、ラジオ「基礎英語」の源流となる講座を担当した岡倉由三郎の業績と英語音声教育のための教材を紹介。

2019年度 「Classroom Englishを極める!音読学」

 教師が教室で使う英語のフレーズを音読学的に見たときの奥深さについて研究。

 

 

3. 近年の研究から

 上記の音読学研究から、3つについて概要を補足します。いずれも同友会の研究大会にて発表した内容を基にしています。

 

①日本語の中の英語音(2011年度)

 「Canadaの発音は、『カナダ』でも『キャナダ』でもない。『毛穴だ!』が近い。」こんな、ダジャレのような主張は荒唐無稽でしょうか。実はそうでもありません。Canadaの最初のaは、「エ」から「ア」に変化させていくときれいに出すことができます。Caの部分はたしかに「ケァー」と聞こえるのです。

 日本語と英語には音声の特徴に大きな隔たりがあるため、「日本語発音ではだめだ」と苦手意識を持つ日本人は多いことでしょう。しかし、私たちが普段使っている日本語の中に、意外な形で英語の音が現れているとしたら、どうでしょうか。それらは英語の音を習得する大きな手助けになるはずです。

 この研究では、上記の例のように、日本語の中に潜んでいる英語らしい音を収集し、「なぜそのように聞こえるのか」「どう説明すれば正確であり、かつ印象的なのか」を検討しました。約100例集めた中から、英語授業の中でも紹介できそうなものをいくつかご紹介します。

 

◆漢字から英語らしい接辞へ

旬→ -tion   station / fiction  「ション」ではなく、あいまい母音で「シュン」に

順→ -sion   occasion / vision  「ジョン」ではなく、あいまい母音で「ジュン」に

 

◆日本語から英語らしい挨拶フレーズへ

家康→ Yes!  力を入れると、eの音がエからアに近い音に変化し、「イェァス」となる

風呂→ Hello.  Heの母音は弱くあいまい。「ハ」や「ヘ」よりも力のぬけた「フ」に近い

 

◆固有名詞がこんな発音に

上野→ went to  アメリカ英語のt音は、破裂せずnの音になることがある

大阪→ Oh, soccer  「サッカー」の「ッ」のような促音は英語では現れず、「サカ」に近い

 

◆一瞬びっくり、しかし納得の語句

味噌→ missile  これも語末のl音により「ミソ」に近くなる

最高→ cycle  語末のlのせいで「クル」よりも「コー」に

勝利→ surely  特にイギリス英語ではureの部分が「オー」に近づく

仮眠→ Come in.  語末の子音と次の語の頭の母音が自然につながる

若干便利→ Jack and Betty  andは弱く「ン」。Bettyt音は米音でラ行に近くなる

 

 

②岡倉由三郎研究(2017年度)

 島岡丘氏が本欄「ELEC通信」に投稿した、岡倉由三郎先生(1868-1936)の英語研究・英語教育にかけた生涯についてのコラムを読みながら、岡倉先生考案の「英語發音練習カード(1927, 1931)」に描かれた音声学的な解説の先進性(子音の分類法、日本人学習者向けの発音指南など)について研究しました。岡倉先生は、明治から昭和にかけて音声学・英語教育・国語教育の各分野で活躍し、日本初のラジオ英語講座を担当した方です。岡倉先生が『英語青年』誌に投じた英語音声表記についての問題提起に、90余年の時を超えて島岡氏が答えるという試みもあり、英語音声指導の歴史が連綿とつながることを強く感じる研究でした。筆者個人としては、3年間講師を担当したNHKラジオ「基礎英語1」の源流にあたる講座が岡倉先生の「初等英語講座」だったことに、不思議な縁を感じています。

 島岡氏の連載コラム(全5回)はこちら↓

https://www.elec.or.jp/teacher/communication/essay/okakura_yoshisaburo_1.html

https://www.elec.or.jp/teacher/communication/essay/yoshisaburo_2.html

https://www.elec.or.jp/teacher/communication/essay/yoshisaburo_3.html

https://www.elec.or.jp/teacher/communication/essay/yoshisaburo_4_.html

https://www.elec.or.jp/teacher/communication/essay/yoshisaburo_5.html

 

Classroom English研究(2019年度)

 授業において教師が何度も発し、生徒が何度も聞く英語のインプットであるClassroom Englishには、英語の授業の雰囲気づくりだけではない「音の原体験」としての大きな役割があると考え、その音声的な表現について研究しました。

 具体的には、文部科学省の『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』から「実習編」より、第1節「クラスルーム・イングリッシュ」の一覧のフレーズを例に検討しました。例えば、"Hello, everyone!"というフレーズ一つでも、適切に表現するには、/l//v/などの音素を正しく発音するだけでなく、「あいさつの場面に応じた明るい音調」や「文尾を少し上げて親しみを出すイントネーション」「メリハリの効いた強弱のリズム」など多くの要素が互いに影響し合っています。

 また、"Wonderful!" "Excellent!" Fantastic!" など相手をほめるフレーズについても、これらをどのように表現すれば「ほめている」ように聞こえるのかについて研究しました。

 

図:“Wonderful!”の適切さに関するポイント(2021年発行予定の紀要より)

 

 授業場面を想像し、口に出しながら音声的実現について分析すると、①音節間で音程の落差をつけること(Won-der-fulの順に「思い切り高く」「普通に」「低く」と音調が推移する) や、②子音を粒立ててはっきり発音すること(特に語頭の/w/の円唇) など、いくつかの要素を見つけることができます。「ほめる」というのは感情の動きを伴うことですから、イントネーションの高低や音の強弱のギャップを普段よりも大きくすることによって、その感情を効果的に表すことができるというわけです。この研究は、研究大会発表後に考察を加え、同友会の『研究紀要』(2021年に発行予定)にもまとめました。

 

4. 今後の研究活動

 2021年度以降は、音声表現の適切さについて、それを測る尺度、実現するための要素、鍛えるための方法について議論し、実践例を積み重ねることをテーマに活動していく予定です。最近の例会では、「大学入学新共通テストリスニング問題の音声」を聞きながら、朗読に現れる特定のイントネーションがどんな意図で使われているか、「日本人と思しき話者」と話題になったナレーターの音声はどうしてそのように聞こえたのか、など、深く考察しています。今後は中学の新課程教科書とその音声にも注目していきます。

 音声の分野は、トレーニングによって上達する余地の大きい領域です。学習者の音声表現力向上のため、教える側の耳と口も鍛え、表現力を磨く着実な営みを続けていきたいと思っています。

 

参考文献

岡倉由三郎. 1927, 1931)『英語發音練習カード』. 研究社.

島岡丘. (2004).『日本語からスーパーネイティヴの英語へ-10段階完全マスターのコツと処方箋』. 創拓社出版.

(たなか あつひで)
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