一般財団法人 英語教育協議会
ELEC(エレック)英語研修所
  1. 授業ビデオ・振り返り・学び合い 

授業ビデオ・振り返り・学び合い 

評論2022.04.26

ELEC同友会英語研究学会研究活動⑨

(ビデオによる授業研究部会より) 

渓内 明(文京区立本郷台中学校教諭)

 

1 はじめに

ELEC同友会英語教育学会、ビデオによる授業研究部会は、小学校、中学校、高等学校における英語の授業研究を中心とする研究部会である。現場の授業ビデオの視聴を基に、指導法、授業展開、教材、評価、生徒指導等について研究活動を行っている。1985年の発足以来、授業力の向上のために努力を重ね、授業映像を提供してくださった方々、毎回の部会に熱心にご参加いただいた方々に支えられ、2022年4月現在、通算234回を重ねている。本稿では、ビデオによる授業研究部会の運営、研究内容などについて述べる。

 

2 部会の運営について

ビデオによる授業研究部会(以下、ビデオ部会)は発足以来、公開部会として運営されている。ELEC同友会英語教育学会(以下、ELEC同友会)の他の研究部会は、月例の部会で研究活動を重ね、毎年秋に行われる研究大会において、研究の内容や成果を発表している。研究部会に参加できるのは会員のみである。これに対して、ビデオ部会は「常設の公開部会」であり、会員以外の方も参加することができる。秋の研究大会では部会としての研究発表は行っていない。

 

部員(2021年度は7名)は、事前に発表者への依頼、打ち合わせ、部会会場の確保を行う。部会の当日は、会場の設営、資料の準備、参加者の受付事務、機器の設置や操作、会の司会進行など運営面の仕事が中心であるが、運営に携わりつつ、同時に参加者として研究協議に参加している。部員自身が発表者となる場合もある。また、部員全員が、実践研究、オーラルプローチ研究、音声指導研究、評価研究など、他の研究部会にも所属して研究活動を行っている。

 

3 部会の参加者

先述の通り、ビデオ部会は公開部会として運営されている。事前予約の必要なく、会員、非会員を問わず参加することができる。実施会場が東京都内であるため、首都圏の参加者が多いが、過去に、北海道、東北、中部、関西など遠方からの参加者も見られた。

 

中学校、高校の教員はもとより、英語教育が専門の大学教員、教員志望の大学生・大学院生、自治体の教育委員会の方、塾や英語教室の先生、教科書や教材の開発に関わる方ど、様々な参加者が見られる。驚いたことには、国語が専門でありながら、校内事情から英語の授業を担当する中学校の先生もいらした。また、ELEC同友会に小学校英語研究部会が発足されて以来、ビデオ部会でも小学校の授業を取り上げ始めたことで、小学校の教員の参加もある。公立、私立、国立を問わず参加者が見られるのは、ビデオ部会に限らず、ELEC同友会の特徴である。

 

参加者の多くは、ELEC同友会のウェブサイト、メーリングリストを見て参加されるが、英語教育関係の雑誌、ウェブサイトの研究会掲示板にも案内を出している。また、ELEC同友会のサマーワークショップや研究大会の参加がきっかけで、ビデオ部会を知る方もいる。ビデオ部会の参加が、研究大会、サマーワークショップ、教科書著者ワークショップ、また他の研究部会の参加に繋がった方もいる。

 

4 発表内容・発表者

 (1)発表者

ビデオ部会の発表者は小・中・高の先生方である。ELEC同友会の会員はもとより、会員以外の方もいる。部会の告知用の案内には、「(発表者は)自薦・他薦は問いません」という文言がある。ご自身で発表を希望される方、部会から発表を依頼した方、他の研究部会から推薦された方、何度か部会に参加の後に発表者となられた方など様々である。

 

 (2)部会の内容・研究テーマ

毎回の部会では、小・中・高の1時間の授業における、教科書本文や文構造の扱い、言語活動の内容や展開、ペアやグループなど活動形態、文法や語彙の指導、本文の題材の指導、ウォームアップ活動や帯活動、教材作成、評価方法など、発表者が課題とされることをテーマにしている。

 

これまでに実施した234回の部会のうち、部会の記録が残っている、19959月から20224月までの、校種・学年別の授業ビデオの発表回数は以下の通りある。

(3)テーマ(タイトル)                                            事前に部会案内等に載せるテーマ(タイトル)は、「中学2年生の授業」「高校1年生の授業」など校種・学年だけを記載していた。第63回部会(19971月)で「中学1年生の授業―様々な活動の授業に取り入れて」というテーマを設定した。以後の部会では、授業の特徴、主たる活動、発表者が考える授業の目標や課題を反映した、以下のようなテーマを設定し、視点を明確にして、有意義な研究協議ができるようにしている。    

(4)研究大会の公開授業

ELEC同友会の研究大会では、「ビデオによる公開授業」を行っている。(これは大会の実行委員会で運営しており、ビデオ部会での運営ではない。)研究大会は、300名を超える多数の方に参加していただける反面、研究協議で意見交換をしたり質問したりする機会が限られている。「授業者に質問したかった」「授業をもう一度見たい」という要望もあり、ビデオ部会で、研究大会で公開された、優れた授業をあらためて見る機会を設定している。

 

(5)他の研究部会との合同部会

小学校外国語科の教科化に伴い、2019年と2021年に小学校英語研究部会との合同部会として、小学校の授業を取り上げた。2020年と2021年には、オーラルアプローチ研究部会の協力で、同部会で研究用に撮影した、文法導入のデモンストレーション授業の映像を使い、4回の合同研究部会をオンラインで実施した。

 

5 部会の進め方

 (1)タイムテーブル

 本部会は年間6~8回、原則として第4土曜日の15:0017:30に実施してきた。会場や発表者の都合により、日時の変更や時間の短縮はあるが、以下のタイムテーブルを基本に運営している。

(2) ノンストップ・ノーカット

授業ビデオを公開する研究会は、他の学会や研究会でも様々な形で行われている。例えば、授業のまとまりごとに映像を止めて、その都度、授業者からの解説、参加者からの助言、質疑を行う形式。初めからダイジェスト映像のみを視聴する形式など、各研究会が、それぞれ工夫された形で行われている。

 

ビデオ部会では、当初は50分間の授業を、まとまりのあるところで2つに分け、その都度、質疑や討論を行っていた時期もあった。しかし、部会内で協議をした結果、原則として1時間の授業をノーカット、ノンストップで視聴することになった。授業全体のメリハリ、教師から生徒への一言など、教室にいる生徒に近い視点で授業を視聴することに意味があると考えたからである。そのため、視聴する前に、配布資料の説明、生徒の様子、授業構成、目標、参加者に特に見てほしい部分、意見や助言がほしい部分について、授業者自身から10分程度説明する時間を設定している。

 

授業の映像は、生徒の発話までクリアに収録されているものから、据え置きカメラでの録画まで様々である。音声や映像が所々不明瞭な場合もある。発表者には、必要に応じて「ペアで〇〇について話しています」「今、生徒は〇〇を書いています」など、映像再生中でも、その場で参加者への補足説明をお願いすることもある。ビデオを視聴した直後に5分程度の質疑を行う。この時点で協議は行わない。質問の内容は、主に映像や音声が不明瞭だった部分、配付資料に関する確認に限定している。

 

休憩後に研究協議会を行うが、休憩中に座席をコの字型にして、参加者全員の顔を見ながら話し合うのが恒例である。

 

(3) 研究協議

部会の後半は授業者と参加者とで研究協議を行う。指導案等の配布資料も参考にしながら、視聴した授業を振り返るとともに、提起された課題や指導法について意見を交換したり、アイデアを共有したりするなど、授業者と参加者、参加者同士が学び合うことを重視している。授業者が自評をして、最後に助言者が講評するという形はとっていない。協議会には1時間以上を確保している。研究会の主な流れは以下の通りである。

①参加者同士が自己紹介をしてから始める。参加者の名前、所属などがわかると、協議がスムーズ

に進行する。

 

②協議に入る前に、視聴した授業ビデオに関して見づらかった部分や、配布資料に関する説明など

について、授業者より補足説明を行う。

 

③協議の中心は、部会の前半に視聴した「本時の授業」であるが、その前後の時間の授業の指導、

単元の指導計画、評価、普段の様子など、周辺の事項について参加者の関心が及ぶことが少なくな

い。「本時の授業」について議論する前に、それらのことに関して参加者から授業者に質問をす

る時間を設ける。そして「本時の授業」について協議する時は、話題が周辺事項に逸れることが避

けられるようにしている。

 

④「本時の授業」に関する協議については、授業者が作成した指導案の「本時の展開」をいくつか

のまとまりに区切って議論する。授業者が最も課題としていて、参加者から意見をもらいたい部分

の議論に最も多くの時間をかける。例として、「音読指導の具体的な手順、効果的な方法」

paraphraseの方法やポイント」「音声と文字、意味を導入・提示する方法やタイミング」「フォ

ニックス指導」「口頭練習の手法」などがある。発言が少ない時は、座席が近い参加者同士で意見

交換をする時間をとる場合もある。

 

⑤協議は質疑や意見交換だけに終わらず、授業者から提起されたテーマや課題について、参加者か

らの発展的な意見、参加者同士のアイデア交換に発展する場合もある。

 

⑥部会の最後に、参加者の方にB6サイズの紙に、授業者への感想、助言、メッセージの記入をお願

いしており、授業者の先生に持ち帰っていただいている。

 

6 コロナ禍でのオンラインによる部会

新型コロナウイルスの感染拡大により、ビデオ部会は2020年2月の部会を最後に、活動を一旦中断せざるをえなくなった。ELEC同友会では各研究部会、ワークショップ、研究大会等をZoomによるオンライン実施の体制を整え、ビデオ部会は第226回(2020年7月)より部会をオンラインで再開させた。残念ながら公開部会ではなく、参加は会員のみとしている。

 

授業映像のオンライン配信には、映像の処理、資料の配信等、様々な制約が伴うが、オーラルアプローチ研究部会の協力で、文法導入のデモンストレーション授業の映像を使い、4回の部会を実施した。また、発表者の方々にも、生徒の姿が写り込まないように撮影したり、教師と板書だけを撮影したりして授業を提供していただいたおかげもあり、2年間で9回の部会をオンラインで実施することができた。

 

感染拡大の状況が落ち着き、もとどおり対面会場での研究部会が再開できることを願っているが、オンラインで実施することで、これまでに東京都内の会場に来られなかった会員の方も気軽に参加できるメリットも感じている。

 

7 最後に

37年間に渡り200回を超えるビデオ部会を継続できたのは、忙しい現場を抱えながら、高い志をもって授業改善に取り組み、映像を提供してくださった先生方のおかげである。部会を運営しながら、私たち部員も数多くの授業を視聴し、授業者のお話を直接伺うことができ、大いに勉強させていただいている。

 

発表者の中には、相当の勇気を振り絞って映像を提供した若手の先生も多くいる。ビデオ部会で、参加者からの意見や助言、授業の実践例やアイデアなどを持ち帰っていただき、授業の引き出しを少しだけ増やしていただけていると感じている。

 

また、これまで「1時間の授業」に注目してきたが、「単元全体の指導を視聴する部会ができれば」という意見が聞かれるようになった。授業者の方の撮影の負担など、課題は多くあるが、可能性を考えていきたい。

 

今後もビデオ部会では、「授業を視聴し、振り返り、学び合うこと」を大切にして、小学校、中学校、高等学校、また大学まで異なる校種間での指導の連携にもつながるように、活動を続けていきたい。

(たにうち あきら)

 

ELEC同友会英語教育学会 ビデオによる授業研究部会

https://elecfriends.com/video/

 

 

 

 

 

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