一般財団法人 英語教育協議会
ELEC(エレック)英語研修所
  1. small talkを中心とした小学校英語科の授業改善と評価指標の開発・共有   田村岳充

small talkを中心とした小学校英語科の授業改善と評価指標の開発・共有   田村岳充

評論2019.11.11

 宇都宮大学教育学部助教 田村 岳充 

 

  

1 はじめに

 

 本稿は,2019年度基盤研究(C)(一般)に本稿題目と同名で採択された研究計画を素に加筆・修正を行うと共に,研究の概要とここまでの進捗状況を論述するものである。

 

2 問題と目的  


 (1)小学校外国語活動・外国語を取り巻く状況

   日本英語検定協会英語教育研究センター(2018)によると,外国語活動・外国語の望ましい担当者は誰かを問う設問に学級担任と回答しているのは53.1%であり,英語専科教員の57.8%,ALT(Assistant Language Teacher)の79.5%と比べて低い。外国語活動が始まって7年が経過した現在でも,担任以外が授業を行ったほうがよいとする回答が上回っているところに,小学校教員の不安が未だ十分には解消されていないことが伺える。

酒井・滝沢・亘理(2017)は,外国語活動の授業を行うために必要な内容を包括的にまとめており,実際に授業を行う教員が学ぶべき内容を理論面から整理している。しかし,専科ではない小学校教員を支え,体系的かつ効果的な研修を行うための内容や方法を扱った書籍はほとんどない。町田・内田

  (2015)は,集中研修の改善・充実に向けた研究を,池田・今井・竹内(2017)は大学院生を支援 員として小学校に派遣する研究を行い,双方とも一定の効果を上げたと報告している。しかし,先行研究では,実際に児童の反応を観察する授業研究の機会を設定していない。授業研究を中核に据えた,小学校教員を対象とする外国語活動・外国語の研修を継続的に行った例は,筆者が知る限り見られない。

   全国で小学校教員を対象とする研修が数多く行われているが,山森(2013)は,「多くの研修の内容が指導理論とその実践および言語理論に焦点を当てたものとなっている」と述べる一方で,池田・今井・竹内(2017)は,「小学校教員は,実際に授業をどのように進めるか,授業に活用できるものを求める傾向が強い」と主張している。 

    小学校外国語活動・外国語を取り巻く状況を改めて概観すると,実際に授業をどのように

 行い,改善をしていくか,実践的な研修が求められている一方で,実際には研修が理論的な内容を中心としたものとなっていたり,授業を観察し,事後研究会を行う等の機会が不十分であったりする等の課題を抱えていることが分かる。

  

 (2)教員研修の中核に授業研究を置く意義

   田辺(2017)は,小学校教員の不安を解消できるように教員免許更新講習の内容を吟味し,受講者からの好意的な回答を得たとしているが,受講者がその後,実際に授業に臨む不安を解消できたか,また,英語を運用するようになったかを継続的に捉えていないという課題がある。さらに,授業研究に関しては,ビデオによる授業観察や模擬授業を実践することに留まり,実際に児童の反応を観察しながら学ぶ機会を設定していない。先行研究が提案する研修には授業研究の要素が欠けている,ということは大きな課題ではないだろうか。

   秋田(2008)は,「授業研究とは,授業で何に気づき,それをどう捉え関連づけるかについて他の教員と意見交換することで,授業を言語化して再構成して学ぶ場である」としている。石井(2018)は,「授業研究の有効性は,個々の教員の授業力を高めることのみならず,教員が相互に学び合い,高め合う組織となるための中核となるとともに,その過程で実際に児童・生徒の変容を目の当たりにすることで,教員が授業研究という取組の意味を実感し,継続的な授業改善の営みを生み出していくことだ」としている。佐藤(2009)も,「授業研究は一教員が単独で授業のあるべき姿を追究するものではなく,教員が共に学び合い高め合う良好な関係性(同僚性)を築く中で,授業実践を創造的に生み出すことにつながっていく」と主張している。吉田(1997)は,「一授業という枠を超え,単発的な取組に終わることなく,持続的に授業研究に取り組むべきだ」と主張している。専科の教員が少ない小学校外国語活動だからこそ,教員が個人で授業改善を充実させていくことには限界がある。先行研究が示す授業研究の有効性をもとにしつつ,協働的,内省的,継続的に授業研究を行うことが求められると言えよう。 


  (3)small talkの意義

    小学校外国語活動の授業研究を行う上で,言語習得につながる学びとなっているかという観点から検討を加えることは重要である。そのための鍵の1つとなるのが,授業で扱われるトピックと児童をつなぐsmall talkである。文部科学省(2017, p.130)によると,small talkとは,「あるテーマのもと,指導者のまとまった話を聞いたり,ペアで自分の考えや気持ちを伝え合ったりすること」とされている。small talkを豊かに行うことは,平成29年3月に告示された小学校新学習指導要領の理念としてクローズアップされている「主体的・対話的で深い学び」を,外国語活動・外国語の授業で実現するためには欠かせない。太田(2012)も,「small talkが学習者を英語の世界に引き込むための鍵の1つになる」と述べており,教員がALTや学習者とsmall talkを通してかかわり合うことを求めている。こうした観点から,新しい指導要領の全面実施を控えた今,授業研究の視点として,small talkを位置付けることは非常に重要であると言えよう。 


 (4)那須烏山市の小学校教員の実態から

   筆者は2018年度,栃木県那須烏山市の英語コミュニケーション科アドバイザーの委嘱を受け,現在も継続してその職務を務めている。6月に市内5小学校の全ての学級担任48名を対象に,英語コミュニケーション科についての意識等を尋ねる質問紙調査を行ったところ,「英語で授業を進めること」,「ALTや児童と英語でのやり取りを行うこと」に不安を抱える教員は, 55%に上った。外国語活動の必修化から7年が経過した現在でもなお,大きな不安を抱えたままでいる小学校教員への支援ができないだろうかと考えたことが本研究の端緒である。上述の質問紙調査における「研修で扱ってほしい内容」を問う設問への回答状況は,授業研究39%,「体験型の研修」32%であった。また,文部科学省(2017, p.130)が,「主体的・対話的で深い学び」を導くためのポイントとして示す「small talk」や「教室での英語使用」に関する研修を求める教員は54%に上った。そこで,2018年度の研究指定校である烏山小学校の英語コミュニケーション科主任や授業研究会において授業を公開する授業者,教育委員会指導主事と打ち合わせを持ち,教員の希望を第一に検討をした結果,研修の中核に授業研究を据え,最も重視する視点としてsmall talkを位置づけることにした。


3 研究の目的と方法


(1)本研究の目的

 2(1)から(4)を受け,本研究の目的を以下のように設定した。 

・栃木県那須烏山市の小学校英語コミュニケーション科の授業改善を推進するための研修を充実さ

   せることで同市小学校教員の不安を和らげ,授業改善に向けた支援を行うこと

・授業の観察者がタブレットで児童の様子を撮影し,授業者がカバーしきれない児童の学びの姿を

   詳細に捉えるとともに,授業研究会においてタブレットによる映像を複数視聴し,授業中の児童

   の学びを多面的に捉えること

・英語を使ったやり取りの中で,望まれる児童の反応とはどのようなものかを表す指標(シンプト

   ム)を設定して,授業研究会での振り返りの中心的な視点とするとともに,改訂を重ねながら共

   有化し,児童の「コミュニケーションへの関心・意欲・態度」を見とるために活用していくこと

 

(2)本研究で何をどのように、どこまで明らかにしようとするのか

  本研究で追究することを以下に挙げる。 

・小学校教員の抱える不安を解消するため,大学教員・教育委員会等が教員を支援する体制を構

 築するとともに,授業改善に向けた支援のあり方を追究する

・タブレットを活用し,small talkが行われる際の児童の様子を記録し,授業者のどのような発

 話・発問が児童のやり取りへの関与を促進するのかを捉える方法を検討する

・研修の中核に授業研究を置き,児童の反応をつぶさに観察するとともに,授業研究会での省察

 の中心的な視点とすることによって,small talkの質的改善と充実を目指す

・授業研究会での議論等を経て,望まれる児童の反応の姿を具体的な指標として設定し,コミュ

 ニケーションへの関心・意欲・態度の評価に生かせるようにする

・研究の成果を共有し,個々の教員の負担を軽減し,研修効果を最大限高める

  

 

(3)研究スケジュール


 研究期間3年の進行イメージを図1に示す。上段に示すように,授業研究を重ねることで,small talkのある英語授業が,児童の言語習得のための一助となり,児童が自ら学びたいと感じるようなものとなっているかを見取るため,児童が何を,どのように学びたいのかを重視し,何を,どのように学ぶのかを大切にする,「児童の側から見る授業観」への転換を図れるようにしたいと考えている。そのため,下段に示すように,研究第1年次は,研究校においてsmall talkを意識した授業を実践し,授業研究を重ねること,そして,small talkの際の児童の反応をつぶさに観察し,望まれる児童の反応が見られているかどうかを捉えていく。研究2年次には,前年度の研究を受けて授業研究をさらに進めるとともに,small talkの質的改善を目指していく。具体的には,授業者の発問・言葉かけを受け,児童がどう応答・反応するか,そして,その応答・反応を受けて,授業者がさらにどう言葉を返していくか,small talkが児童の関与を引き出し,やり取りへと発展していくための具体的な方法について検討していく。その過程で見出されたことを,望まれる児童の反応を言語化したシンプトムとしてまとめ,研究第3年次には,作成したシンプトムを研究校のみならず,那須烏山市内の小学校で評価指標として活用し,研究の成果と課題を発表したいと考えている。 


(4)研究で期待される変容 


 図2は,左に,本研究の前段階で課題となっていることを,右に,本研究で期待される変容を示している。研究によって,小学校教員の不安が軽減するとともに,授業が変わることによって,児童の学びも変容していくことを目指す。また,教員の授業観,児童の学びの見取り,ALTの関わりも変容することをねらっていく。


(5)研究体制

研究の研究体制を図3に示す。筆者は、那須烏山市教育委員会よりアドバイザーの委嘱を受け,指導主事とも緊密に連携している。研究校での研修内容についても協働的に整備している他,ALT派遣会社の研修担当者とも連携し,ALTに求められるsmall talkの実践力についても検討を行っている。図3のような研究体制をもとにコンソーシアムを構築し,研究を推進する。

 


    4 研究の内容

 

 (1)研究開始前年度

  研究校として烏山小学校が指定され,6月,9月,1月の年間計3回の授業研究会を実施した。授業研究会前には,授業者と事前相談を重ね,学習指導案作成のプロセスにも寄り添い,small talkを取り入れる際の要点について助言する等の協力体制を構築した。夏期休業中には,那須烏山市教育委員会が主催する指導法研修があり,筆者が講師を務めた。研究校以外の4つの小学校から指名された教員と,自ら希望する市内の2中学校の英語教員が参加し,小グループの中で実際にsmall talkに取り組む演習を行った。ALT派遣会社から,6名のALTも参加し,普段の授業にも還元できる内容となった。研修内容をsmall talkに焦点化したことで,授業の中で意識すべきことが明確化し,受講者の評価も高かった。また,研究に関わる関係者が顔を合わせて話し合う機会となり,コンソーシアムの構築につなげることができた。 

    研究校での授業研究会を重ねるにつれ,英語を使ったsmall talkが行われる場面が段階的に増えていく様子が観察された。児童にとって自分と関わりのある身近な題材や場面設定があり,その中で行われるsmall talkでは,児童の反応が豊かになる様子が観察された。結果として,徐々にではあるが,目指したい方向に向かって授業が改善されていった。参観者は,各自が授業において観察できた事実を付箋紙に記録していく方法で授業観察を行い,それらを共有し合う形で授業研究会を進めていく中で,指導方法の是非等を論じる「教師の側から見る授業観」から,子どもの学びの姿をつぶさに捉える「児童の側から見る授業観」へと,教員の授業の見方が転換されていった。

  このような研究開始前年度の取り組みを通して,翌年から始まる研究第1年次から,授業研究を中核とした研究推進は有効である,という見通しをもつことができた。

  

(2)研究第1年次 

 研究校として荒川小学校が指定され,前年度同様,年間計3回の授業研究会を実施することとなった。文部科学省が2018年12月に,新学習指導要領の全面実施に向け,2018年度の公立小学校の教職員定数について、質の高い英語教育を担う「専科指導教員」を1,000人増やす方針を明らかにしたことを受け,那須烏山市でも,小学校に英語専科教員1名を配置することとなった。専科教員は,荒川小学校を原籍校として,前年度研究校の烏山小学校を除く3校,計4校を巡回して授業に当たる体制となった。授業においては,専科教員をT1,ALTに加え,学級担任をT2として3名体制で授業に当たることになる。このことは本研究計画立案時には想定をしていなかったことであるが,研究の基本方針を変えることなく,実態に応じた支援を行っていくことをコンソーシアムで確認をした。 

   専科教員と筆者の間の相談を前年度以上に密にし,大学での打合せ,メールでの相談等を頻繁に行って公開授業への準備を整えた。第1回の授業研究会では,事前の準備もあり,前年度よりもさらに、small talkが行われた授業となった。現在,第2回目の授業研究会に向けた準備を行っているところである。 

   専科教員に加え,学級担任の中の数名,また,荒川小学校の情報教育担当をワーキンググループとし,荒川小学校の実態,児童の様子,教員のニーズを踏まえた話し合いを行い,科研費を活用して,専科教員用1台,各学年用1台のiPad計7台,iPadで撮影した映像をワイヤレスで再生できるような環境作りのため,各階ごとに設置されている移動式の大型液晶テレビに接続するApple TV計3台,また,荒川小学校では未整備のWi-Fi環境を実現するため,各階ごとにWi-Fiのアクセスポイントを3カ所設置することとし,今後の研究の進捗に併せて,ハード面での環境整備を進めているところである。筆者が実務家教員である利点を最大限に生かし,理論だけに終わらず,小学校教員が不安を払拭でき,実践が深化しやすくなるような支援を今後も行っていく。また,研究の成果について改めてELECのWebサイトにて発表する予定である。    

  

引用文献

  

秋田喜代美 (2008). 「授業検討会談話と教師の学習」秋田喜代美・キャサリン・ルイス (編著)『授

      業の研究 教師の学習 レッスンスタディへのいざない』. 東京:明石書店 

池田真生子・今井裕之・竹内理  (2017). 持続可能な校内教員研修システムの構築―小学校での外国

      語(英語)活動における不安軽減に焦点を当てて- JES Journal, 17, 5-19 

石井英真 (2018). 『授業改善8つのアクション 学び合えるチームが最高の授業をつくる!』

     東京:東洋館出版社 

町田智久・内田浩樹 (2015). 教師の外国語不安の軽減を目指した教員研修の開発  JES Journal, 15

      31-49 

文部科学省 (2017). 『小学校外国語活動・外国語研修ガイドブック』

     http://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1387503.htm (November 5th. 

     2019) 

日本英語検定協会英語教育研究センター. (2018). 小学校の外国語活動等に関する現状調査(報告

     書)ttps://www.eiken.or.jp/center_for_research/pdf/market/elementary_press_2712.pdf

   (November 5th. 2019) 

酒井英樹・滝沢雄一・亘理陽一. (2017). 『小学校で英語を教えるためのミニマム・エッセンシャル

      ズ 小学校外国語科内容論』東京:三省堂 

佐藤学 (2009). 『教師花伝書―専門家として成長するために-』東京:小学館 

田辺尚子 (2017). 「小学校学級担任の外国語活動に対する不安を軽減するための研修に関する考

  察」『安田女子大学紀要』 16, 99-108 

山森直人. (2013). 外国語活動に求められる教師の教室英語力の枠組みと教員研修プログラムの開

  発:理論と現状を踏まえて  JES Journal, 13, 195-226

吉田達弘 (1997). 英語科授業研究における文化人類学的視点の必要性-『反省的実践』へ向けた

  学習観,授業観の再検討― 言語文化研究, 17(1), 79-101




 

  


 

 



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