一般財団法人 英語教育協議会
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  1. 特集:CLILを展望する:①「CLILを展望する」

特集:CLILを展望する:①「CLILを展望する」

評論2020.04.06

東洋英和女学院大学教授 笹島茂

 

CLILは「パンデミック」?

  2020年は波乱の幕開けとなった。医学が発達した今日、予期しないウィルスが蔓延し、このように社会を混乱させることを誰が予想できただろうか。2019年末に中国で発生した新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は急速に世界中に広がり、2020年3月11日にパンデミック(pandemic)と宣言された。奇しくも東日本大震災から9年目の日だった。COVID-19がここまで全世界の脅威となるとは思わず、その頃CLIL関連の出張でウイーンにいた。ふとEUで生まれたCLILに「パンデミック」を重ねた。CLILは、EUの統合の一環として、また、グローバル化の波に押され、多言語多文化状況を反映し、従来のバイリンガル教育や内容重視の指導(CBI)を取り込み、急速にトレンドとなっている。現在CLILは、多くの地域と同様日本でも広がっている。それも状況により変異しながら浸透している。

柔軟で複雑な学び

  CLILは、応用言語学の観点から批判(cf. Bruton, 2011)もあり、当初根拠が希薄で分かりにくい学習だったかもしれない。確かに、未だ明確に定義できない多様で柔軟で複雑な学びとして実践的に発展している。私自身は、この捉え所のない特徴がCLILの魅力だと考え実践している。CLILは、1970年代から発展してきた応用言語学あるいは第二言語習得(SLA)理論を基盤にしているが、ある面でそれに挑戦したと言える。乱暴に言えば、これまで培ってきた科学的な言語学習理論を飛び越えて、「科目の内容を目標言語で学ぶ」という実に単純な発想で言語教育に参入し、学習者の言語の自律的な学びを促進した。

  批判はあったがEUの政策的支援を受けて、CLILは2000年初頭に主流であったいくつかの学習理論と実践を応用し、CEFR推進の陰で統合的に複雑に進化発展した。多くの教師はCLTを認めていたが、言語の意味や機能を重視し技能に焦点を当てる指導に満足せずに学習者のニーズを考え、ESPやCBIなどの英語教育からはマージナルな教育に興味を示すようになった。そのような実践的な言語学習の機会を学習者に提供する必要性から、CLILは受け入れられていったと言えるだろう。こうしてヨーロッパのCLILは、2000年代になり急速に広がり今日に至っている。その動向は日本に限らず世界に広がった。

英語教育として

 この地球はグローバル化とともに便利になり、多くのことが相互に密接に関連して機能するようになっている。国連が提唱する17のSDGs(Sustainable Development Goals)[1](持続可能な開発目標)が関心を集め、PISA(15歳生徒の学習到達度調査)を実施するOECDはGlobal Competence[2]という能力の育成を推奨している。良くも悪くも、ものや情報の移動はこれまでの常識では通用しない。英語教育は、これに関連する言語の行動中心的(action-oriented)な役割を考慮する必要があるだろう。それは、CLILの理念(principles)にもつながる。

 COVID-19が蔓延する直前の3月に、ウイーン大学を訪ねDalton-Pufferに会った。CLILに関する研究の第一人者である彼女に最近のCLILの動向を尋ねた。彼女によれば、CLILは、ヨーロッパでは定着し着実に世界に広がっていて、南アメリカなどではEFL(English as a Foreign Language)におけるCLILが注目されているそうだ。日本でも同様であり納得できる。ヨーロッパでは、CLILはあくまで科目教師の教育アプローチで外国語教育とは違うものとされてきていたが、実際には、CLILに興味を持った教師の多くは英語や外国語に関心のある教師だった。それは多くの論文や実践を読むと明らかで、著者の多くは、CLILの内容面の学習ではなく、言語(教育)的な面に興味を持っていることがよく分かる。背景にはヨーロッパの言語事情がある。教師の多くが英語を中心としていくつかの言語を使用できる環境があり、また、人の交流も流動的で、数学、理科、歴史、地理などの科目を英語で指導するというCLILが浸透しやすいインフラがあった。これが英語教師の刺激にもなった。CLILは、ある意味で言語教師の意識や定義も変えた可能性がある。

 それでは日本の英語教育はなぜCLILに興味を持っただろうか。私が会長を務める日本CLIL教育学会(the Japan CLIL Pedagogy Association: J-CLIL)[3]は2017年に発足した。2020年3月現在350名を超える会員がいる。会員の多くは英語教育に関わっている。総じて入会の動機は、従来から学ぶ内容を重視した指導に興味を持っていたことがあげられるが、英語を専門としない人、研究としてCLILに興味のある人、CLIL実践に興味のある人、英語で授業をする人、バイリンガルの人など様々である。要するに、英語で何かを教えたい、英語を使って活動するなどを実践している(したい)人が、CLILに関心を持つ傾向があるようだ。活動の詳細はウェブを見てもらえれば分かるが、実践を重視した学会である。その学会の3年間の活動からCLILを展望することで、日本のCLILがどのように発展しているかある程度把握できるだろう。



[1] https://www.un.org/sustainabledevelopment/

[2] https://www.oecd.org/pisa/pisa-2018-global-competence.htm

[3] https://www.j-clil.com


状況に合わせたCLILの定義と展開

 2017年4月にJ-CLILが発足する以前からCLILは各教育機関で実践されていた。CLILと公言して実施したのは上智大学や埼玉医科大学だった。その後、高校や中等教育学校に広がり、小学校などの外国語活動で始まった。バイリンガル学校やIBプログラムもほぼ同様の活動であり、「英語で授業をする」(EMI: English Medium Instruction)もある面で共通する活動を展開しているために、それらをCLILと括るかどうかは、指導者の考え方に委ねられる。CLILという用語は当初から広義の統合学習を意味し、定義が曖昧である点は問題ではあるが、インクルーシブで柔軟な考え方が人を惹きつけている。もちろん、狭義のCLILにこだわる人も多く、常に「CLILとは何か?」「この活動はCLILというのか?」などの質問は後を絶たない。そのために私はCLILを次のように定義している(笹島, 2019)。

 

 CLILは、学ぶ内容(科目やコースなどに関連した知識、理解、技能)と言語(英語と日本語などのバイリンガル)の統合学習のことを表す総称的な言い方であり、コミュニケーション重視の言語指導を基盤として、認知(思考)と文化(文化間意識)に焦点を当てる。CLILは学習状況により目標言語の学習と使用に関しては柔軟に対応し、変わる。

 

これを図で表すと次のようになり、それぞれの要素が状況に応じて柔軟に動的に変化することを特徴とする。

この定義は、Coyle (1999)が提案したCLILの4Cs (Content, Cognition, Communication, Culture)のフレームワークを日本の文脈に合わせたものである。特徴の一つは「言語学習(language learning)」である。日本の英語教育ではやはり英語という言語の基本的な理解が必要だ。単に「コミュニケーション」だけではうまくいかない。さらには、ハートマークに象徴した教育的アプローチとしての「こころ」を取り入れている。

 CLILでよく引用される定義は、「内容と言語の学習と指導に付加言語が使われる二重焦点の教育的アプローチ(a dual-focused educational approach in which an additional language is used for the learning and teaching of both content and language)」 (Coyle, Hood & Marsh, 2010: 1)である。ヨーロッパの教育環境ではこのシンプルな定義で問題ないが、日本では多様な受け止め方があり多少の混乱が生まれた。極端な例は、CLILは学ぶ内容に関する専門的な知識がなければできないという考え方である。従来からあるLSP (Languages for Specific Purposes)(明確な目的のための言語)と同様の議論がここでも始まる。このような議論は建設的ではないと考え、2017年に、「CLILあるいはCBLT (Content-based Language Teaching)等の統合教育に関する研究と実践を推進する」という目的のもと、J-CLILを発足した。発足以来、定例会、大会、セミナー、ニューズレター、ジャーナルなどでの発信を通じ多様な実践を積み重ねることで、「CLILとは何か?」の問いに答える活動ができていると自負する。

 J-CLILがスタートして3年、正確な実態は分からないが、総じて日本のCLILは拡大していることは間違いない。根拠は、J-CLILへの関心、活動への参加と反応、関連文献や書籍の数などの動向である。J-CLILでの活動の特徴は、1)英語教育と他の言語教育、2)英語教育と多様な分野、3)幼児から社会人まで、4)母語話者、バイリンガル、非母語話者、5)多言語多文化、などの多様なネットワークが構築されつつあることにある。そのネットワークの中でCLILの活動が活性化されている。CLILが発展する上でこのような分野の異なる人がCLILという統合学習を考えることは大いに意義がある。

 以前『日本でのCLILの進展―2013』(松本・池田・笹島, 2014)[1]というオンラインレポートを発行した。2012年に実施されたCLIL懇談会をまとめたものである。それを読むと当時のCLILの状況がよく分かる。当時のCLILはまだ模索状態にあり、その発展型の一部がJ-CLILとなったが、現在はかなり進化してより多様に活性化していると言える。CLILを実践していると公表している教育機関は増加し、また、カリキュラムにCLILの要素が加わるようになり、EMIの推進と重なり英語母語話者がCLILを理解するようになっている。さらには、「トランスランゲージング(translanguaging)」(cf. Garcia, 2009)という英語と日本語を交差して効果的に使うことで言語意識を高める教育的なアプローチが注目され、新しい形のバイリンガル教育が展開するようになっている。CLILは「こうであらねばならない」と考えるのではなく、多様な状況に合わせて柔軟にCLIL活動を工夫し開発すると考えることが大切だ。

CLILの課題

 現状の課題は、やはり、内容と言語の統合にあり、それをどう学ぶかである。「4Csフレームワーク(4Cs framework)」「言語の3点セット(language triptych: language of/for/through learning)」「スキャフォールディング(scaffolding)」「ブルームの教育目標分類(Bloom’s taxonomy: HOTS & LOTS))など、CLILを特徴づけるキーワードはいくつかある。多くのCLIL実践者はこれらのCLILの特徴を参照している。しかし、それらを追随しているだけでは発展性がない。また、学びは順調に進行することだけがすべてではない。失敗も必要だ。常に工夫することが大切で、成功や失敗の実践を共有することである。要するに、多くのCLILの実践を共有することが現時点での大きな課題である。それにはJ-CLILのような活動がカギとなる。

 もう一つの課題は、カリキュラム改善である。日本の学校教育はCLILのような統合学習カリキュラムを実質的に受け入れにくい。制度としては弾力的な運営も可能であるが、教師の裁量が弱い。英語は英語、数学は数学、使用言語は日本語という教科の枠組みが固定化する傾向が強い。学習言語は「国語」という暗黙の了解がある。CLILの基盤は多言語多文化や自律学習にあるが、両方とも日本の学校教育文化ではあまり重視されていない。これを改善するためには、教員養成や研修にトランスランゲージングを理解するコースが必要となる。


[1] https://cliljapan2013.blogspot.com


具体的に言えば、英語を介した教科等横断的な授業実践のコースを取り入れる、あるいは、英語と各教科との連携と統合に関する一貫したCLILカリキュラムを工夫する機会などが考えられる。文部科学省が示す「カリキュラムマネジメント」の主旨には、かなり柔軟な考え方が提示されているにもかかわらず、多言語に関する記述はほとんどない。この点にCLILを取り入れることは一理あるだろう。

 現行の中等教育の教職課程の外国語(英語)コアカリキュラムでは英語に関する専門的事項に、「英語コミュニケーション」「英語学」「英語文学」「異文化理解」が設定されている。英語という言語の知識や技能のことだけを考えると、これは妥当であるが、グローバル化する現代における英語の役割を考えると、現状で英語がどのように使われているかを考慮する必要があるだろう。ここでもCLILが重要な要素となる。その点から、英語教師も他の科目の教師もCLILの理解が必要で、カリキュラムに柔軟な工夫が求められる。

おわりに

 CLILはグローバル化する社会ですべての人に必要な教育理念だと考えて携わってきた。その意味でパンデミック(= all the people) になりつつある。1980年代からバイリンガル教育の一環として始まり、ヨーロッパではスタンダードとなった。大きな要因は人の移動と多言語多文化である。今後もCLILには多様な学習の展開が期待される。COVID-19で注目されるようになった「インフォデミック(infodemic)」に対応する意味でも、CLILは有用だろう。

引用文献

Bruton, A. (2011). Is CLIL so beneficial, or just selective? Re-evaluating some of the research. System 39 (4), 523–532.

Coyle, D., Hood, P., & Marsh, D. (2010). Content and Language Integrated Learning, Cambridge: Cambridge University Press.

Coyle, D (1999). ‘Theory and planning for effective classrooms: supporting students in content and language integrated learning contexts’ in Masih, J (Ed): Learning Through a Foreign Language London: CILT

García, O. (2009). "Education, multilingualism and translanguaging in the 21st century". In Multilingual Education for Social Justice: Globalising the Local, A. Mohanty, M. Panda, R. Philipson, and T. Skutnabb-Kangas, eds. (New Delhi), pp. 128–145.

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