一般財団法人 英語教育協議会
ELEC(エレック)英語研修所
  1. [ELEC英語教育賞 受賞校取組] 広島県立広島中学校・高等学校 協働的な学びを通じた発信活動の試み

[ELEC英語教育賞 受賞校取組] 広島県立広島中学校・高等学校
協働的な学びを通じた発信活動の試み

学校取組紹介2019.04.05

2018年度ELEC英語教育賞文部科学大臣賞を受賞した 広島県立広島中学校・広島高等学校の取組を紹介します。


1.取組前の課題                                     

 これまでの取組における課題については以下の通りである。

① 教育や環境問題,貧困問題など,世界の諸問題を扱う主教材に加え,様々な視点から学習するための教材開発に取り組んだが,単元によっては教科書の内容をなぞるだけに終わることがあり,GEの特性であるテキストを批判的に読み,課題解決に向け,自ら考えを表現したり他者と議論したりするプロセスを十分に経ることができないこともある。

② 生徒が,ある問題について考える際,課題の本質は何か,今考えられる最善解は何か,多面的・多角的に捉え,より深く考えることができるよう,他教科と連携し教科横断的な学習を推進することが不十分である。また,オープンエンドの質問に対する生徒の発言を,さらに掘り下げ,全体に議論を深めていくことができていない。

③ 定期考査やパフォーマンス課題において普遍的に使用できるルーブリックの開発は,「書くこと」の作成に留まっており,採点は主としてネイティブの専任講師が行っている。また,「話すこと」におけるルーブリックの開発が不十分である。スピーチなどの発表に関わるルーブリックの他に,やりとりに関わるルーブリックの開発が遅れている。

④「GEⅠ・Ⅱ」の学習内容や,指導方法,評価方法について,SGHの研究対象でない高校第2学年・第3学年スタンダードコース(以下Sコース)における指導への還元が十分でない。


2.目標としたこと                                    

 各問題状況における改善目標を以下のように設定し,取組を進めているところである。

≪課題①,②について≫

必要に応じてシラバスで予定されている学習内容の配置を,コミュニケーション英語(以下C英)や他教科の学習内容も踏まえて変えたり,各単元における授業時数を確保したりすることによって,学習内容の深化を図る。また生徒自身が学習内容を書籍やインターネットを通じて調べたり,学んだ内容を発表したりする活動をできるだけ多く取り入れ,学習者主体の学びを促す。

≪課題③について≫

 スピーチや発表等「話すこと」に関わるルーブリックの開発に着手し,P課題の実施方法や評価方法について再検討し,普遍的に使用できるルーブリックの開発や授業改善に活用する。

≪課題④について≫

 「GEⅠ・Ⅱ」における指導内容や指導方法を,Sコースの生徒の習熟度に応じてカスタマイズし,C英や英語表現(以下英表)の授業で実施することによって,SGH事業を外国語科全体として推進する基盤をつくる。


3.具体的な活動内容                                   

≪課題①,②について≫

シラバスで予定されている単元の配置を適宜変更し,社会や実生活と学習内容,あるいは単元と単元とのつながりを意識させた。またできるだけ新しいデータやYouTubeを利用しオーセンティックな教材使用に努めた。また第一学期,第二学期にP課題を設定し,パワーポイント(PPT)やポスターによるグループ発表を実施するとともに,ディベートに取り組んだ。実施内容は以下の通りである。


A パフォーマンス課題①

 「地球温暖化」の単元において,その要因と考えられることを一つ取り上げ,その要因についてさらに深く調べ,人や環境に対する影響と解決策についてグループごとにPPTを作成し発表する。



【生徒が作成したPPTの抜粋】

 


 教科書やDVDを使用し,地球温暖化による影響や世界規模で実施されている対策といった基礎知識を学習し,さらに地球温暖化の一因と考えられている森林伐採との関連性について,作成した補足資料を用いて概要を捉えさせた。その後,生徒はグループごとに地球温暖化の原因となる項目を一つ選び,その背景となる事象についてリサーチをし,考えうる解決策について提案した。

 生徒の発表の中には,温暖化の原因を実生活と結び付け,自分たちにとってより身近な問題として捉えた上で具体的な解決策を提案したり,独創的な解決策を紹介したりする等,教科書の内容を超えた発表もあり,生徒だけでなく教員も新たな視点を得ることができた。


B パフォーマンス課題②

 GEⅠとC英Ⅱで学習した「地雷」とその除去方法を英語で提案させる課題を設定した。各グループに除去方法に関連する3つのカテゴリー(ロボット,動物,人間)のうち一つを割り当て,地雷が持つ問題点とその解決策を提案させた。前回のP課題の反省点として挙げられた,生徒の発表までの準備とグループでの練習時間が確保できなかった点,発表時に原稿に頼り過ぎてしまう生徒が多かった点を踏まえ,グループごとに練習時間が確保できるよう発表までの指導計画を見直した。

しかしながら,グループによってポスター制作の進捗状況に応じ発表練習に差が生じてしまい,結果的に原稿をまる読みするのではなく,自分の言葉で発表できたグループは3分の1程度であった。GEⅠやC英Ⅱでの学習を通じて,日常的な話題について英語で相互に話したり,教科書の学習内容について英語で受け答えしたり,要約したりすることについては即興で表現することに慣れている生徒たちであるが,調べた内容をPPTやポスターにまとめた上で,発表原稿に頼らず論理立てて英語で話すことはまだまだ不十分である。


≪課題③について≫

「話すこと」に関する伸長度を測るため,年度当初と年度中間時にスピーキング調査を実施した。調査方法は,口頭で読み上げられた質問に対し,30秒間で準備し45秒間で解答する形式とした。ルーブリックを作成し,外国語科教員全員で評価に関する研修を行いスピーキング調査を実施した。

 年度当初の調査では,Gコースの生徒の中にも,何をどう答えるべきか短時間で考えをまとめることができず,発話量が非常に少ない者もいた。授業において,自分の意見を理由と共に即興で表現する活動を積極的に取り入れた結果,年度中間時の調査では,ほとんどの生徒の発話は量も増え,使用する語いや構文の点においても質的向上が見られた。

一方,「内容・構成」の項目においては,大半の生徒が一つの理由に対して補足説明を加えて話すことができるようになったが,回答時間を45秒間と短めに設定したため,時間内に二つ目の理由について説明することができなかった。これらの点を踏まえ,生徒実態に応じ,質問項目,準備,発表時間や「内容・構成」の評価基準について再考する必要がある。

 質問内容,ルーブリックは以下に示す通りである。


 


≪課題④について≫

 C英Ⅲの授業において,DDR(Disarmament, Demobilization, Reintegration)「武装解除,動員解除,社会復帰」の活動について学習した際,事実に基づいた発問に加え,生徒に類推を促す発問や,交渉の再現をさせる等,自分ならどのような行動をとるかを考えさせ,生徒がより主体的にテキストと向き合い,深い読みを通して,深い思考へと繋がる授業作りを行い,各国が抱える諸問題を自分事として考えるきっかけとした。発問を工夫することによって,一見生徒にとって縁遠いと思われる話題と生徒を取り巻く実社会とのギャップを埋め,生徒に題材に対する興味関心を持たせることに有効であったと考える。

 また,現在では高校1年生を中心にSGH事業で計画されている行事と授業における表現活動を連動させたり,SGH事業を通じて習得した手法を授業における表現活動に活かしたりするような取組を行っている。本年度は,教科書の学習内容をもとに生徒が互いに問答をすることによって,相手とのやりとりの中で自分自身の意見を構築する活動を始めた。問答によって,即興性や論理的思考,表現力を鍛え,二年次に行う英語ディベートへの足掛かりにしていきたいと考えている。


≪その他の取組≫

 GEⅠでは,全国高校生英語ディベート大会で設定されている論題で英語ディベートにも取り組んでいる。高校2年生Gコースの各クラスから選抜されたチームで校内大会を実施し,代表メンバーを選出し県大会に出場している。またSGH事業を広く普及するため文部科学省と筑波大学が主催した全国高校生フォーラムで英語によるポスター発表を行ったり,本校のSGH事業の一環として実施している海外フィールドワーク(フィリピン,オーストラリア,ハワイ)に参加したり,グローバル問題研究夏季集中講座において,広島大学の留学生や在外広島県人会の同世代の生徒と異文化協働活動を行ったりしている。

 また,本校外国語科の開発した評価資料(パフォーマンステスト,評価ルーブリック,生徒のインタビュー映像)は,広島県の県立高等学校の英語担当教員を対象とした研修の演習教材に使用されるとともに,実践については,広島県高等学校教育研究会英語部会において報告し,広島県の英語教育の推進に寄与している。


4.得られた成果・今後の課題                               

 以上の取組から得られた成果と課題について,実用英語技能検定(英検)とGTEC(Gコースの生徒のみ,高3生は6月,高2生は6月と12月に受験)による外部評価による検証を行った。

本校では,生徒が個々に英語学習に取り組む動機づけ,そして英語力を測る指標の一つとして,英検を受験することを推奨している。SGH事業の一環として本校で実施している海外フィールドワークについても,英検の取得状況が参加条件の一つであるため,英検受験者は学校全体で年々増加している。Gコースでは,高2生までに全員が英検2級を取得することを目標とし,平成29年度高3生Gコース,平成30年度高3生Gコースともにほぼ全員が2級を取得した。Sコース,Gコースともに2級取得後は,準1級への挑戦を薦めているため,準1級取得を目標に自主的にライティング問題に取り組み,添削を依頼する生徒も見られるようになった。近年は準1級合格者の中に高1生やSコースに所属する生徒も含まれており,この点において,SGH事業がSコースの生徒にとっても,英語学習の意欲向上につながっていると思われる。



 またGTECに関しては,高2生(現高3生)は,リスニングの伸びは小さくライティングではグレードに変化がないが,すべての項目でスコアに伸びが見られた。これらの検証結果から,SGH事業の取組によって,とりわけGコースの生徒の英語力について一定の向上が見られた。各科目において設定したP課題に向け,4技能を統合した活動(読む・聞く→話す・書く)を積極的に取り入れた結果,知識や技能を活用する場として授業が機能し,それによって生徒の英語力向上につながっていると考えられる。



 しかし,「話すこと」については,スピーキング調査によって発話量や内容・構成に肯定的変化は見られたものの,自分の言いたいことを簡潔にまとめ,論理的に表現することには課題がある。調査方法やルーブリックの評価基準をより生徒の学習実態や到達目標に応じたものに変え,指導内容や指導方法の改善に繋げていく必要がある。また,話すトピックの抽象度が上がるにつれ,生徒は原稿に頼る傾向が高くなるため,自分の言葉で説明できるように,生徒自身がトピックに関する知識や発表内容を十分に理解することに加え,発表のためのメモの取り方や聞き手を意識したより良い発表について系統的に指導していく必要がある。また「書くこと」については,文と文や段落と段落が有機的に関連付き,論理展開が明確な文章を書くための指導や,生徒がある問題について多面的・多角的に考えることができるよう,指導者側の持つ情報が偏らないような注意が必要である。同じトピックでも違った見方で書かれているような記事を資料として使用し,生徒が模範的な解答だけを探さないような授業展開をすることが求められる。そのためにも,指導者が十分な教材研究を行い生徒の発言を全体の議論へと深めるファシリテーターとしての役割を一層機能させ,指導者自身が一学習者として学ぶ姿勢を持ち,生徒とともに学び合う学習環境を作っていきたい。

本年度,SGHの指定を受け第4年次を迎えているが,SGH事業の取組をGコースだけに留めるのではなく,Sコースへの指導に活かす方法をもっと模索しなければならない。SGH事業を通じて,様々な課題を自分事として考えるための発問を工夫したり,SGHに関わる行事と授業とを関連付けた指導の在り方,あるいは他教科の学習内容を英語の授業と関連付けたりする等,授業改善に向けて個々の教員が積極的に取り組み,またそれを他の教員と共有し,今まで以上に教科全体としてよりよい授業作りに努めている。それに伴い,生徒が様々な文化的背景を持った人々との交流に積極的に参加し,主体的・協働的に学ぼうとする意欲や態度は,次第に学校全体の雰囲気として高まりつつあると感じている。しかし,多様な他者と協働していくために必要な「英語力」を身に付けている生徒はまだ多いとは言えない。SGH事業の取組や学習内容,指導方法,評価を本校外国語科として確立させていくことが,グローバル・リーダーに必要な資質や能力を備えた生徒を育成するという教育目標を,真の意味で実現させることに繋がると信じ,今後も授業改善に努めていきたい。


(2018年度ELEC英語教育賞 広島県立広島中学校・高等学校の申請書を編集して掲載しました)

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