[ELEC英語教育賞 受賞校取組] 徳島県鳴門市第二中学校
「豊かな国際感覚を育み、コミュニケーションへの積極的な態度と確かな英語力を育成する小中一貫の外国語教育の創造」

2017.04.05

2016年度ELEC英語教育賞 文部科学大臣賞を受賞した徳島県鳴門市第二中学校の取組を紹介します


1.取組前の課題                               

 本校は,平成25年度から文部科学省研究開発認定校として指定を受けており,平成27年度には試験的に教科としての外国語活動(小学校外国語科)を経験し,これまでの「聞くこと」「話すこと」に加えて,小学校で「読むこと」「書くこと」を学習した生徒が入学してくるという状況にあった。生徒の実態を考えると,中学校として,特に入門期である中学校1年生の指導内容・方法について見直すことが必要であった。特に,音声から文字への学習に円滑な接続を図ることは課題であり,中学校2年生・3年生でも言語活動をさらに充実させなければならないと考えた。そこで,生徒の学びの連続性を大切にするために,中学校ではどのような取り組みができるかを研究するに至った。

 

2.目標としたこと                              

 小学校1年生から中学校3年生までの9年間の学びの連続性を考慮した段階的な指導を行うことにより,「豊かな国際感覚とコミュニケーションへの積極的な態度,確かな英語力を身につけた生徒」(目指す生徒像)が育成されると考え,小中連携の在り方を中学校の視点から検証する。

 

3.具体的な活動内容                             

①  カリキュラム

小学校からの学びのつながりや系統性を意識し,カリキュラムの改善を図った。

 小学校からの学びの連続性を意識することにより, 活動や単元構成について深く考えることへと繋がった。小学校からの学びのつながりや系統性を意識した単元を導入し,3年間のカリキュラムを再編成した。一例として,小学校外国語科での学校や地域のよさに気付く単元「夢の町へようこそ」や「好きな場所を紹介しよう」「日本のよさを伝えるおすすめセットを作ろう」を受けて,1年生では「オリジナル教材観光マップを作ろうⅡ」,2年生では「道案内-鳴門の観光ガイドを作ろう」,3年生では「留学生に鳴門の文化や観光地を紹介しよう」を設定し,実施した。


          [小学校6年生]                     [中学校1年生]         [中学校2年生]


  
 

 

 

 また,教科としての外国語の指導を受け「読むこと」「書くこと」も学習した生徒を受け入れるにあたり,入学当初に扱う指導内容の精選を図りスタートカリキュラムを作成した。これは,小学校と中学校の学習を関連させ,さらに発展させた多様な言語活動の展開を図る土台となる。

 スタートカリキュラムで学習した内容は,その後の学習にも効果的に取り入れ,既習事項を反復活用しながら理解を深め,表現を広げていくようにしている。小学校での指導方法の継続に配慮し,小学校で活用している教材・教具を1年生で授業の導入に効果的に取り入れた。小学校で行った活動をもとに,さらにそれらを発展させ,身近な話題について生徒が自ら考えて表現できるような言語活動を展開することで,自信と意欲の向上につなげ4技能の総合的な育成を目指した。


<スタートカリキュラムの流れ>

S1.新しい友達に自分のことを知ってもらおう
外国語科で大切にしてきた「思いを伝え合う場面」を継続し,ペアやグループ活動を多く取り入れ,双方向のコミュニケーションを大切にした活動を展開する。

S2.ボードゲームをしよう
小学校で慣れ親しんだ表現や言語材料を系統的に学習していく。

S3.アルファベットの文字と音をつなげてみよう

小学校で慣れ親しんだ言語材料を正確に表記できるよう,音と綴りを関連させる活動を展開する。

S4, 5, 6.アルファベットを書こう
小学校で慣れ親しんだ表現を正確かつ適切に書くことができるように,音声から文字への丁寧な指導を展開する。

S7, 8.オリジナル名刺を作って交換しよう
名前や自分の好きなものなどを書く活動を通して,単語の書き方や文の書き方など「英語の文を書く時のルール」について学ぶ機会と位置づけ,正確かつ適切に書く活動へと繋げる。 

  

<留意点>

●毎週の外国語科への授業に参加し,児童についての共通理解,新教材開発に携わってきた中学校コーディネーターが中心となり,中学校へのスムーズな接続をめざし指導を行う。

●外国語科で慣れ親しんだ表現が盛り込まれている歌やチャンツ,絵カードを効果的に活用し,音声・リズム・視覚教材から,小学校で学んだ言語材料を想起することができる活動を展開する。

●外国語科で多様な学習形態を取り入れていることを生かし,ペアやグループでの活動を通してのインタラクションを大切にする活動を展開するように配慮する。

●小学校外国語科での「書くこと」は,文字のよさを感じさせ,コミュニケーションの幅を広げる一つのツールとして捉えていることを受け,相手意識や目的意識を大切にし,生徒が言語(英語)を使う必然性がある場面設定をした活動を展開する。

●生徒が本時の学習を振り返り,次時への目標を持つことができるように,Reflection Sheet (振り返りシート)を作成し,生徒が英語学習に対して抱く思いや達成状況を,毎時間丁寧に確認する。

 

 [振り返りシートと,進んで単語を辞書で探す様子]
  









② 指導方法と教材

  全学年を通して実施した指導方法等の特徴として,内容に踏み込んだ言語活動の充実を図った。生徒が身近な話題について思考し,判断し,表現できるような題材や活動の流れを工夫するための実践を重点的に行ってきた。


文法事項を言語活動と効果的に関連させた指導を展開させた。

「気付かせ,学ばせ,身に付けさせる」をキーワードに,本時に学習する文法事項等を説明してから使わせるような従来の指導ではなく,生徒に英語を使わせながら「なるほど,この場面ではこんな英語を使うんだ。」という気付きを大切にした指導を進めた。


生徒が興味・関心をもつ身近な話題について実際の場面を想定した言語活動を行い,相手を意識しながらコミュニケーションを展開させる指導を行った。

授業では,実際の場面を想定したコミュニケーション活動を展開させた。生徒が興味・関心を持つ話題のみならず,生徒の周りや社会・世界の中でどのようなことが起こっているかを敏感にキャッチして場面設定を行い,言語活動ができるようにした。


その場で考えながら話すような言語活動の設定と目的意識のある完成度の高いスピーチをめざす指導の両方を実践した。

実際のコミュニケーションを想定して,「即興で英語を話す力を育てる」ための活動を積極的に取り入れている。様々な場面でその場で考えながら話すようなチャットタイムを設定し,1年生から帯学習として継続して指導を進めている。準備して行うスピーチの指導では,原稿の添削を細かく行い,JTEが個々の練習を支援,ALTが発音チェックをしたりして,より正確な内容を,自信をもってスピーチに臨めるようにサポートしている。また,原稿作成前には,マッピングを活用することで,自分の伝えたい内容を膨らませ,相手により伝わりやすい順番構成なども考えさせている。


コミュニケーションの相手を意識した個別学習・ペア学習・グループ学習など学習形態の多様化を図った。

授業では,コミュニケーションの相手を意識した学習形態を

展開するように心がけ,「学び合い」により, 生徒が協働して

課題に取り組めるような授業展開を心がけた。


英語運用能力向上を支える基礎的な力の育成のための音声も含めた家庭学習の充実を図った。

ライティング力は,授業で養う力と,それを補い強化していく家庭学習との両輪により形成されると考える。よって,本年度1年生は,授業で学んだ言語活動の場面設定を変えた課題を出すなどの工夫をし, 生徒が見通しを持って,意欲的に英語を書こうとするような家庭学習を実施している。生徒の作品は必ず教師が確認し,効果的なフィードバックを行うように努めた。音声教材は,昨年度に引き続きALT録音による教科書本文CDを配付し,自主学習に活用できるようにした。本年度はICレコーダーにALTがスピーチ原稿を録音し, それを生徒に配付することにより家庭学習で活用できるようにした。


③ 評価
  各活動のねらいを明確にし,指導と評価を一体化させた授業を展開した。「英語を使って何ができるようになるか」という観点から設定した,「CAN-DOリスト」(別紙参照)の形での学習到達目標とともに, ねらいとする英語力を身につけた生徒の姿をイメージしながら, 活動の目標を設定し,授業を展開している。評価については, そうした言語活動の取組や成果が生かされるものでないと,「活動はおもしろいが,テストには役に立たない」という意識が生徒に芽生え,英語の学習に対する意欲に影響がでることが懸念される。そこで, ゴールを明確にした上での評価を設定し,そのねらいとする英語力を身に付けさせるための指導を継続して行っている。


④ 教員研修

 本校では,毎週,英語科教員が校内で情報交換や研修の機会を持っている。年間を通じて,研究授業等の実施時には,研究開発の中心となる英語科教員だけではなく,学校全体で取り組み,他教科との連携も図りながら,協働性を高めている。加えて,講師を招いての授業研究会や「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標の作成・活用等の研修,先進校の視察なども行った。小学校教員との中学校教員の交流・情報交換としては,小学校で外国語科を担当している教員が中学校の授業に参加したり,中学校の英語教員も小学校の授業参観を積極的に行ったりしている。中学校におけるスタートカリキュラム作成会や指導案検討会には,小学校教員にも参加してもらい,小学校外国語科での学習内容を踏まえて,小中の学びの連続性を意識した指導について意見交換をした。

 

4.得られた成果・今後の課題                            

授業への関心・意欲の向上 

 生徒への意識調査の結果から1年生は79.6%,2年生は82.1%が, 英語を「とても好き」「どちらかといえば好き」と肯定的にとらえ,英語学習に興味・関心をもって取り組んでいることが分かる。3年生に関しては,「とても好き」「どちらかといえば好き」と回答した生徒の割合は67.3%であるが,英語を「とても好き」と回答した生徒の割合が昨年度と比較して増加している。これは,生徒の興味・関心やコミュニケーション活動を重視した授業展開が効果的であったと推測される

 

         英語の学習が好き            授業への積極的な参加

     [平成27年度]         [平成26年度]           [平成27年度]







           

        

コミュニケーションへの意欲の向上

 生徒への意識調査の「ペアやグループでのコミュニケーション活動が好きかどうか」に対する回答からは, 1年生は89.3%の生徒が肯定的に捉えていることが分かる。2年生は80.6%,3年生は83.2%の生徒が「ペアやグループでのコミュニケーション活動が好き」と肯定的に捉えている。

 3学年を通して実施しているALTとのインタビューテストに対して,「自分の英語が通じて, ランドン先生と一人で会話ができた。次は, もっと英語を話してみたい。」「ランドン先生からの質問が全部分かって答えることができて,楽しかった。」などの肯定的な意見が多く聞かれた。

 また,入学当初から,学び合いを大切にした協働学習を進めてきた結果,生徒は意欲的に活動に取り組み,自分が伝えたい内容や聞きたい内容を,英語を使って積極的に表現しようとする姿が多く見られるようになった。なお「即興的に話す」練習のチャットタイムの効果に関しては,スピーチやインタビューテストにおける生徒間やALTとの対話や質疑応答などで,徐々に表れている。

 インタビュー途中で,突然された質問に対しても自分の感想や意見を即座に述べたり,相手に問い返したりする様子が見られるようになってきている。

 

英語力の向上

 生徒の英語力の実態を把握し授業改善に役立てるとともに,生徒に英語学習の成果を意識させ,英語学習への意欲の向上を図るため,英検や英語能力判定テストなどの外部テストを積極的に活用してきた。英語能力判定テストの結果を経年比較すると,1年生は英検5級レベル以上が,73.7%(昨年61.2%),2年生の英検4級レベル以上が56.1%となっている。

 また,家庭学習の充実を図ったことの効果として,スピーチや音読テストを通じて生徒の発音が上達していることや,ライティング活動において,以前より多くの語彙を使い長い文章を書くことができるようになっていることも挙げられる。


  [1年生のスピーチ後の作品]     [2年生の課題(添削)]          [3年生の作品(自己PR)]

  

 今回の研究に取り組む中で,「情報交換」から「交流」,「連携」へと,小中学校間の関係が一歩ずつ進んできた。時と場を同じくして協議を重ねる中で,互いを知り,理解を深め,心の距離が縮まり信頼関係が徐々に構築されてきたことを感じる。校種を越えた教師間のつながりが基盤となり,子どもたちの学びが円滑に接続していくのではないだろうか。


[鳴門市第二中学校のCAN-DOリスト]


<中学校卒業時の学習到達目標> 

 身近な課題について英語で話したり書いたりして自分の考えなどを表現するとともに,身近な話題について英語を聞いたり読んだりして話し手や書き手の意向などを理解することができる。

 

  

 

  


[研究組織イメージ図]

 

 ※2016年度ELEC英語教育賞 徳島県鳴門市第二中学校の申請書を編集して掲載しています