[ELEC英語教育賞 2022年度受賞校取組] 宇都宮大学共同教育学部附属小学校                      小学校外国語教育におけるSDGsを関連させた単元開発とその実践―教科書教材にCLILの考え方を取り入れて

2023.04.10

2022年度ELEC英語教育賞 ELEC理事長賞を受賞した宇都宮大学共同教育学部附属小学校の取組を紹介します。


1.取組前の課題                                      

   

 小学校外国語教育におけるSDGsを関連させた単元開発とその実践であり、教科書教材*1にCLILの考え方を取り入れて、発展性のあるものにしていく。

グローバル化した社会において自国の文化の捉え直し、他国の人々の考え方などを理解することが求められ、実践的コミュニケーション能力が不可欠になっている。日本では、学習指導要領において、児童があらゆる他者を価値のある存在として尊重することや多様な人々と協働していくこと、そして持続可能な社会の創り手になることが求められている*2。この教育実現はまさに世界との協働につながる外国語教育の根幹となる指針である。今、世界では未来を変える目標として2015年に国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)の実現が叫ばれ、学校教育での取組も必要になってきている。中学校や高等学校での実践例は国語や社会、理科を中心に見られるが、外国語教育においては数が少なく、さらに小学校外国語教育になると示されていない*3。本校においても、SDGsを関連させた取組は、家庭科の調理実習で触れた程度である。

 そこで、小学校の外国語の授業において、SDGsを関連させた単元開発を行い、授業実践をしていく。その実現のためにCLIL(Content and Language Integrated Learning、 内容言語統合型学習)の考え方を活用する。CLILとは、他教科やトピック・テーマなどの多様かつ本物内容(Content)と外国語学習(Communication)を統合したものであり、そこに思考(Cognition)を促す活動やペア・グループ学習などの協同学習・相互文化理解や国際理解(Community/Culture)を取り入れていく学習法である*4。CLILの内容において、SDGsを関連させていくが、SDGsには17のゴールがあり、全て取り上げるのではなく、児童の興味や発達段階を考慮して適したものを選択し、単元開発を行い、実践をする。また、オリジナルな単元開発ではなく、教科書教材をベースにしながらそこにSDGsの内容を加えていく。CLILの外国語学習と協同学習・相互文化理解や国際理解の側面においては、i-EARNを通して連携が取れた海外の小学校や小学生とICTを使って実際にコミュニケーションを図ることや現地の様子を見ること、録画した児童の発表を互いに見合うことなどを考えている。特にオンラインで海外の同年代の児童とコミュニケーションを取ることは、児童の学習効果や今後の実践に大きな効果を生む可能性がある。

○ 引用・参考文献

*1 東京書籍『NEW HORIZON Elementary English Course 6』

*2 文部科学省(2018)『小学校学習指導要領』開隆堂

*3 日能研教務部(編)(2017)『SDGs 国連 世界の未来を変えるための17の目標 2030年までのゴール』日能研

*4 池田真、渡部良典、和泉伸一(共編著)(2016)『CLIL 内容言語統合型学習 第3巻 授業と教材』上智大学出版


2.改善目標                                        

 

 本取組を行うにあたっての改善目標は2つある。

① 教科書教材にSDGsの内容を関連させた教材開発

 教科書教材は、「We all live on the Earth.」の単元であり、食物連鎖を内容に取り上げている。例えば、Lions eat zebras. Sea turtles eat jellyfish.である。教科書教材の最終的なゴールは、食物連鎖について発表することであるが、食物連鎖からSDGsの内容につなげなければ、CLILのContentにあたる他教科やトピック・テーマなどの多様かつ本物内容にならない。

② CLILの外国語学習(Communication)、思考(Cognition)、協同学習・相互文化理解や国際理解(Community/Culture)を取り入れた単元展開

 ①の教材開発ができたのならば、次に、単元展開はどのようにするのかが課題となる。本取組はCLILの考え方を取り入れているため、教材がContentであるならば、外国語学習(Communication)としてどのような英語表現が必要か、思考(Cognition)として何を考えていけばよいのか、協同学習・相互文化理解や国際理解(Community/Culture)を単元のどこに位置づければよいのかを設定しなければならない。

 

 3.目標達成に向けた具体的な活動内容                           

 

 2つの改善目標を達成した具体的な活動内容について記述する。

 本単元を設定する際,中心に位置づけた内容は,教科書にある理科の第6学年の学習内容「食物連鎖」とそれに加えたSDGsの「12.つくる責任つかう責任」と「14.海の豊かさを守ろう」を関連させた。加えたSDGsの内容は、社会科の第4学年と家庭科の第5学年の学習内容「ごみへの取り組み」に合致する内容であり、児童はいずれも学習済みである。それらの内容を英語で聞いても十分に推測することは可能である。

 次に、単元展開である。教科書教材とSDGsを関連させ、かつCLILの考え方を取り入れているため、本単元は2段階構成にした。単元展開とCLILのContent、Communication、Cognition、Community/Cultureの位置づけは以下の表に記す。

 

時間 単元展開 主なCLILの考え方
第1時 生き物の話を聞いて、内容を推測しよう Content,Communication
第2時 生き物のことについてやり取りをしよう  Communication,Cognition 
第3時 自分の好きな生き物クイズをしよう  Community/Culture,Content
第4時 マレーシアの小学生のビデオメッセージを聞き、内容を推測しよう  Content,Communication, Community/Culture 

第5時

第6時

 ごみ問題について何ができるかを考え、

情報を集めよう

Communication, Cognition 
第7時

 ごみ問題について自分ができることを

友達に伝えよう

Community/Culture 
第8時 マレーシアの小学生へのビデオメッセージ制作に向けて、ごみ問題についてできることをグループで考えよう(授業動画あり)   Content,Communication, Cognition,Community/Culture

第9時

第10時

マレーシアの小学生に向けたビデオメッセージを制作しよう(ビデオメッセージ動画あり)   Communication, Cognition, Community/Culture

 前半は、第3時までであり、地球上に暮らす生き物の生息地や食べ物を知りながら、「食べる・食べられる関係」の食物連鎖(the food chain)に気付いていった。例えば、Sea turtles eat jellyfish. Jellyfish eat plankton. Eagles eat frogs. Frogs eat insects.が挙げられる。このような生き物の生態についての話を扱ったり、聞き取った内容から画像を用いて食物連鎖の流れを示したり、インフォメーションギャップを用いて生き物の生態についてやり取りをしたりする活動を行った。また、人が食べている物について発問したことで、多様な動植物を食べて、命をつないでいることにも改めて気付くことができた。

 後半は、食物連鎖の流れから、ウミガメがクラゲと間違えてプラスチックバッグを食べている状況を取り上げ、ごみ問題(garbage problem)の存在に気付かせた。ごみ問題が日本だけでなく、世界の問題であることを意識できるようにするため、ごみ問題の英語の絵本を活用したり、マレーシアの小学生にビデオメッセージの中で話してもらったりした。そして、そのメッセージの中の「一緒にごみ問題について考えていこう」、「できることは何か教えてほしい」といった内容を取り上げ、「ごみ問題についてできることを考え、自分たちの考えをマレーシアの小学生にビデオメッセージで伝えよう」という新たな学習課題を設定した。ブレーンストーミングでごみ問題についてできることの意見を広げたり、できることや既に取り組んでいる情報をインターネットや自宅で調べたりする時間を設けた。それらを生かして、マレーシアの小学生に向けて、ごみ問題について自分たちができることをグループで考え、ビデオメッセージを制作する活動を取り入れ、単元を構成した。

 以下に、各時間の概要とCLILの考え方を記す。


第1時 生き物の話を聞いて、内容を推測しよう

 動物に関心をもたせようと、教師が休日に宇都宮動物園に行ったことを話題にしたteacher`s talkを行った。動物園の動物たちが世界のどこの国におり、自然のどこに生息しているか、食べている物はなにか、児童のもっている知識も活用しながら、みんなでWorld Animal Mapを作った(Content,Communication)。そして、最初の学習課題「生き物たちがどこに住んでいて、何を食べているかを英語で表現できるようにしよう」を設定した。

第2時 生き物のことについてやり取りをしよう

 前半は、教科書のChantsやAnimal Sounds Quiz、Let`s Listenを聞きながら、Where do ~ live?やWhat do ~ eat?の英語表現に慣れ親しんだ(Communication)。また、生き物が食べる順番として、教科書ではウミガメ→クラゲで終わっていたが、さらにクラゲが食べているプランクトンも画像で示すことで、食物連鎖=the food chainにも気付くことができた。実際に児童から「食物連鎖だ」との声が出た。後半は、インフォメーションギャップのあるワークシートを配布し、相手とのやり取りで空欄を埋めていく活動を取り入れた(Cognition)。

第3時 自分の好きな生き物クイズをしよう

 第1時や第2時で、慣れ親しんだ表現を使って、自分の好きな生き物クイズをペアの友達に出題し合う活動を行った(Community/Culture)。授業後半は教科書のLet`s Listen3を聞き、ウミガメがプラスチックバックを食べたり、海が汚れていたりしていることを分かった上で、さらにマイクロプラスチックを取り上げ、マイクロプラスチックを魚が食べ、その魚を人が食べている流れを提示し、今世界ではごみ問題が深刻なことになっていることを写真と教師の英語を基に児童はその内容を聞き取った(Content)。

第4時 マレーシアの小学生のビデオメッセージを聞き、内容を推測しよう

 本時は、本単元の中で、児童がより思考し、表現していく入口であり、目的意識をもつ時間である。ごみ問題の内容を知るうえで、絵本『The Mess That We Made』(Michelle Lord, Julia Blattman)をまずは活用した。絵をテレビに表示しながら、ALTに読んでもらい、その内容を推測する活動を取り入れた(Communication)。絵本から世界のごみ問題を知った上で、マレーシアの小学生のビデオメッセージを視聴した(Community/Culture)。マレーシアの小学生はとても流暢な英語だったが、日本の小学生が聞き取るには難易度がやや高かった。そのため、繰り返し視聴したり、ビデオに出てくる映像を画像にして黒板に掲示して主な英語表現を教師が言ったりしながら、内容の確認を進めた。内容は、彼らの小学校やマレーシアの簡単な紹介から始まり、生息する動植物の話、ごみ問題によってウミガメが危機に瀕していること、そして、ごみ問題を一緒に解決していこうという提案と日本の小学生はどのようなことができるかをビデオメッセージで送ってほしいという願いであった(Content)。このマレーシアの小学生の提案と願いに応えてみよう、やってみようと教師から投げかけ、新たな学習課題「ごみ問題についてできることを考え、自分たちの考えをマレーシアの小学生にビデオメッセージで伝えよう」を設定した。

第5・6時 ごみ問題について何ができるかを考え、情報を集めよう

 本時では、すぐに伝える内容を考え、英語に起こすことはせずに、伝える内容がやや高度のため、まずは日本語を使って社会科や家庭科で既習したことを思い出しながら、ブレーンストーミングでごみ問題についてできることのアイディアを増やしていった(Cognition)。その上で、「あげる」、「使う」、「切る」などの動きの英語表現を調べたり、ALTに質問したりしながら少しずつ語彙を増やしていった(Communication)。

第7時 ごみ問題について自分ができることを友達に伝えよう

 前時で、することの動きの英語表現を分かったことを踏まえ、本時では実際に実施していることも含めた自分がごみ問題についてできることを友達と伝え合った(Community/Culture)。内容がやや高度であることを考慮し、伝え合う際にはiPadに取り入れた画像を相手に見せながらShow & Tellで伝えることやできることの情報をメモしたワークシートを確認しても良いことを児童に伝え、互いのできることを分かり合った。

第8時 マレーシアの小学生へのビデオメッセージ制作に向けて、ごみ問題についてできることをグループで考えよう(授業動画)

 第4時で設定した学習課題「ごみ問題についてできることを考え、自分たちの考えをマレーシアの小学生にビデオメッセージで伝えよう」の解決に向けた主活動が本時である。本時のめあては学

習課題から下ろされており、「マレーシアの小学生へのビデオメッセージ制作に向けて、ごみ問題についてできることをグループで考えよう」とした(Content, Community/Culture)。「だれに」は「マレーシアの小学生」、「何のために」は「ビデオメッセージ制作」であり、相手意識や必要感を明確にすることで、児童にとって意味のある課題にすることができるようにした。さらに、第7時では実際のマレーシアのごみを取り上げ、そのごみでできることを考えることで、よりマレーシアの小学生への意識を高められるようにした。

実際のマレーシアのごみから、できることをまず現段階で表出できる表現を意識できるように、やり取りをする活動を設定した。その後、マレーシアの小学生がよく分かるための視点とビデオメッセージを制作する視点を挙げ、それに合う英語表現や内容を考える時間を設けた(Communication,Cognition)。前者の視点は、単にごみを減らすための表現である5Rだけでなく、その後またはその代わりにどうすることができるのかという考えも必要であり、例えば、I can reuse cloth. I can give my friends.がそれに当たる。後者の視点は特に聞き手のことであり、グループの友達とやり取りを行うため、黙って聞くのではなく、Wow. Nice.といった反応やIt’s a good idea. Me,too.のようなコメントなどをすることも加えていく。この後、再度やり取りをすることで、より自分の考えや気持ちを話すことができるようにした。

第9・10時 マレーシアの小学生に向けたビデオメッセージを制作しよう(ビデオメッセージ動画)

 前時に、マレーシアの実際のごみからどのようなことができるかについてグループで考えたことを基に、本時ではいよいよ本単元のゴールであるマレーシアの小学生に向けたビデオメッセージ制作に入った(Communication, Cognition, Community/Culture)。自己紹介、自分の身の回りのごみでできること、マレーシアのごみでできることを内容に入れ、他にも日本の良いところ、自分の学校のこと、好きな動物なども入れて動画を制作していた。

 

4.得られた成果とその評価                                 

 

「小学校外国語教育におけるSDGsを関連させた単元開発とその実践―教科書教材にCLILの考え方を取り入れて」をテーマに、2つの改善目標を達成するための具体的な活動内容を述べてきた。本実践から得られた成果とその評価について以下に4つ記す。

  1. 小学校外国語教育とSDGsとを直接的に関連させた単元開発を、教科書教材から発展させたことで、児童の思考の流れから察すると合致しやすく、取り組みやすい内容にすることができた。また、世界全体で抱えているごみ問題という実際に生活や社会で直面する状況に即した内容も取り入れたことで,よりオーセンティックな教材にすることができた。それにより,子どもたちにとって学習する必然性や考えを伝える目的をもたせることもできた。
  2. 小学校外国語教育でSDGsと関連させた単元開発または教材開発は今後も進めていき、少しでも多様なゴールをもつSDGsの内容を網羅できるとよいが、海外の国とつながってできたことは、小学校外国語教育が世界規模で考えるにあたっての中心的な存在になり得る。例えば、他教科でSDGsについて関連させて考えたことを小学校5・6年生の外国語科で英語を使って海外の国に発信することは可能である。
  3. 単元展開を設定するにあたって、CLILの考え方は有効であり、本実践のようなオーセンティックな内容を扱う際には、「内容言語統合型学習」として成り立つことができた。例えば、児童がごみ問題に対してできることとして、まずは社会科や家庭科で学習したカタカナ表記の5R(reduce,reuse,recycle,refuse,repair)を考えとして出し、それを英語の音声と文字にすぐに合致させることができた。また、reuseとして具体的にできることについて、「古本を売る」からsellを、「服を切る、作り変える」からcutとremakeを、「服を友達にあげる」からgiveを統合することができた。これは教師から与えた表現ではなく、自分たちの考えから英語表現を自ら捉えることができたと言える。単元展開を設定する上で、CLILの外国語学習(Communication)、思考(Cognition)、協同学習・相互文化理解や国際理解(Community/Culture)を取り入れたことで、英語表現や使用技能、思考力を促す学びを実現することができ、学習者である児童が主体的に学習に取り組めることにつながったと言える。
  4. しかし、一方で自分たちの考えから英語表現を捉えることはできたものの、インプットからアウトプットするにはやや困難な児童も見られた。教科書にある英語表現であれば,歌やチャンツでインプットし、アウトプットにつなぎやすいが、教科書にない英語表現が出てきたときに、どのようにインプットし、アウトプットへとつなげていくかはより丁寧で細やかな支援を開発する必要があることが分かった。この点が、ICTの効果的な活用が可能性として挙げられる。

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(2022年度ELEC英語教育賞 宇都宮大学共同教育学部附属小学校の申請書を編集して掲載しました)