[ELEC英語教育賞 2019年度受賞校取組]
東京都日野市立日野第六小学校

教科化対応授業改革~実践的な聞くこと・話すことの指導を通して~

2019年度 ELEC英語教育賞 ELEC理事長賞を受賞した東京都日野市立日野第六小学校の取組を紹介します。

1.取組前の課題

本校では平成29年度から専科教員による指導を行っている。この2年半、基本的にはどの年度も、低学年を除き、同じ授業スタイルを各学年の発達段階に応じて工夫し、実施してきた。本項では、教科化の対象となる高学年の実態と指導してきた内容を基に、各年度の問題状況を記す。

  • 1単位時間の授業にゲーム活動を多めに取り入れたため、児童が学んだ表現を用いてやり取りをする時間とともに、その姿を教師が見取る時間を十分に確保できず、評価に具体性が欠けていた。
  • 全時分作成したワークシートやALT向けの英語による指導略案作成等の教材準備に膨大な時間が割かれたため、評価活動や指導の振り返り、改善、教材研究にかける時間が削られてしまった。
  • 基本的に現行の指導要領に則った指導を行ったため教科化に向けた準備が不足してしまった。

新学習指導要領の4技能5領域の目標は概ね達成できたが、次の課題(問題状況)が確認された。

  • 友達と交流する際に、友達の発話に用いられている単語を聞き漏らしたり理解が不十分なまま会話を続けたりすることがあった。(聞くことの課題)
  • 話型や児童自身が作成した原稿に沿って会話や発表をすることができた。しかし、会話や発表の内容に応じて相手や聞き手に即興的に質問をしたり話題を投げかけたりしてやり取りを工夫することは、約30%の児童しかできていなかった。(話すことの課題)
  • 基本的な表現を活用することができる児童が増えているものの、「英語に自信をもって話すことができる児童」の割合は約50%と少なかった。(話すことの課題)

2.改善目標

  • 教科化以降の観点を基に1単位時間の学習の流れを確立し、児童の交流時間を十分に確保する。
  • ワークシート及びALT向け略案のレイアウトを工夫し、それぞれの準備にかける時間を短縮させるとともに、教材研究等に割く時間を増加させる。
  • 「聞くこと」「話すこと」を軸に、全領域をバランスよく指導できる指導の在り方を確立する。
  • 話の細部について尋ねたり付け加えたりする表現とともに、既習表現を効果的に活用することで、話の内容をつかみながら、自然な流れで会話や発表を創意工夫できる児童を育成する。
  • 児童の「話すこと」に対する自信を高め、意欲的に発話できる児童を育成する。

3.目標達成に向けた具体的な活動内容

教科化以降の観点を基にした1単位時間の学習活動の流れの確立

東京都英語教育推進リーダー海外派遣研修で学んだ指導の流れを基にしながら、「知識・技能の活用に重きをおいた学習活動」「思考力・判断力・表現力の活用に重きをおいた学習活動」の2つを学習の柱とし、1単位時間を構成する学習活動を次の8点に大まかに区分した。本学習活動の流れを基に、授業の内容に応じて指導法等を工夫しながら、3年生から6年生まで授業を行っている。

機能的で学びを深めるワークシートのデザイン

3年生から6年生まで、各学年で用いる主要なワークシートは単元ごとに1枚ずつ作成するようにした。ワークシートを作成する際は、下記の項目を中心にレイアウトを工夫している。

  • ノート欄:児童が学んだこと自主的にまとめる欄。学んだ表現や語彙をまとめる「言葉の気  付き」(知識面)、友達とのやり取りの内容を振り返る「交流」(技能面、思考・判断・表現面)、文化の学びをまとめる「文化」(知識面)に分けて書かせている。
  • やり取り欄:単元の学習の中でも、「話すこと(やり取り)」の主要な学習活動において、交流した友達の名前やインタビューした内容を記録する欄を必ず設け、記入させている。
  • 振り返り欄:ノート欄と同じ「言葉の気付き」「交流」「文化」の3項目に加え、自由記述欄である「その他の感想」欄を設け、学習の振り返りを自由にまとめさせている。
  • 発表企画欄:「話すこと(発表)」を主な言語活動として位置付けた単元では、ワークシート裏面に本メモ欄を設け、個人やグループが自由に活用できるようにしている。(本添付資料は、児童がグループの友達と協力をしながら主体的にまとめたものである。)

※上記の主な項目の他にも、各単元における指導内容を精選し、リスニングの記録欄や英文の原稿をまとめる欄を挿入したり補助的なワークシートを活用したりするなど、「指導・評価とワークシートの一体化」を意識してワークシートの作成を行っている。

ALTに向けた指導略案のレイアウトの工夫

指導略案作成やALTとの打ち合わせにかける時間を短縮するとともに、ALTとの指導を効果的に行うために、ALT専用の指導略案の雛型を作成した。下記はその一部である。赤字は記入例。

「聞くこと」「話すこと」の指導を軸とした4技能5領域統合型の授業スタイルの確立

「聞くこと」「話すこと」の根幹となる文字、語彙や表現への理解を深めるために、下記のポイントを本時、または単元を通してバランスよく組み込むことで、「聞くこと」「話すこと」の指導を主体としながらも、教科化に対応した「4技能5領域統合型」の授業スタイルを確立した。

自然な話の内容を意識しながら様々な表現を活用し、会話を工夫できる児童の育成
<話の内容を理解するとともに、自然な流れで会話ができるようにするために>

相手から聞き取れなかった言葉やその意味を尋ねたり、話を切り替えたりする表現を活用することで、より自然な流れで会話を充実させるために、主に以下の表現を段階的かつ重点的に指導した。

上の項の表現をはじめ、過去の単元・年度で学んだ語彙や表現を友達との交流の中で活用させることで、既習表現の定着を図りながら会話を工夫できるようにするために以下の指導を行った。

1分間スピーチの定期的な導入による既習表現の活用促進

平成30年度に取り入れた「1分間スピーチ」を、今年度は主に導入時にウォームアップとしてほぼ毎時行っている。原稿等は使わずに、今まで学んだ表現を総合的に用いてペアで対話を行う取組である。ペアの友達が発話につまずいた際は、その場で使うべき表現を類推し、英語で教え合えるよう指導することで児童間の学び合いを促している。また、対話のよきモデルとなる児童を定期的にピックアップし、学級の手本とすることで、会話の工夫の在り方の参考とさせている。

話すこと「やり取り」「発表」における既習表現の活用促進

話すことの「やり取り」「発表」を通して友達と交流をする際は、下記の流れで指導を行っている。

※「やり取り」における具体例。「発表」の学習においてもほぼ同様の過程で指導している。

※本学習過程は、「思考力・判断力・表現力の活用に重きをおいた学習活動」に組み込んでいる。

4.得られた成果とその評価  

児童主体の活動時間の増加
評価の充実
学習に対する主体性の向上
  • 「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」の活用に重点をおいた活動を学習の柱として明確に位置付けることで、児童が友達との関わりの中で発話する時間が大幅に増えた。教師はその時間を利用して児童の活動をより正確に評価し、適切なフィードバックができるようになった。
  • 「指導・評価とワークシートの一体化」を意識するとともに、教科化以降の観点に応じた「ノート欄」「振り返り欄」を設けたワークシートの作成により、以下の効果を確認することができた。
  • 学習内容を自分で整理しながら文章にまとめるなど、学習への主体性がより高まった。
  • 学んだ語彙や表現を自主的に書き写すなど、「書くこと」に自然と慣れ親しんでいった。
  • 児童にとっては学習を振り返り、教師にとっては児童を多角的に評価するよい材料となった。
時間の節約・労力の削減
  • 1単位時間の学習活動の流れの確立やワークシート、ALT向け略案のレイアウトを工夫することにより、授業計画立案及び教材作成等にかける時間・労力が大幅に短縮された。ワークシートやALT向け略案は校内のデータベースで共有することにより、レイアウトの改善や各学年のニーズに応じたアレンジも素早くできる。また、学習活動の流れも校内で共有し、発達段階に沿ってアレンジをすることで、学校として系統性のある指導を行うことができる。よってこれらの取組は、学級担任の先生が指導されている学校・専科の学校問わず有益な手法であると考える。
各領域の知識・技能のさらなる高まり
  • 「4技能5領域統合型の授業スタイル」の確立とともに、その指導と一体化したワークシート(補助ワークシートを含む)を作成・活用することで、「聞くこと・話すこと」を軸にしながらも各領域が無駄なく、バランスよく指導できるようになった。
聞く・話すことの技能、思考力・判断力・表現力の向上
学び合いの活性化
話すことへの自信の高まり
  • 自然な話の流れで会話する表現を指導するとともに、それらを含めた既習表現を「1分間スピーチ」や友達との交流において活用させることで、話の内容をおさえながら、相手の反応に応じて、英語を母語とする子供たちが実際に行うようなやり取りを続けられる児童が増えた。
  • 3段階で「話すこと」の指導を行うことにより、児童は代表児童の手本や教師のフィードバックから学んだことを生かし、自分の交流、対話の在り方を主体的に改善し、表現の使い方や発音を教え合いながらやり取りに臨むようになった。その結果、自身の成長を実感できる児童が増え、英語に対する自信の高まりにつながった。下記は令和元年度の1学期終了時に、5・6年生の全児童(約215名)を対象として、1学期の始めの様子と比較をさせながら実施したアンケート結果である。%は肯定的な回答をした児童の割合を表している。
  • 話すことへの自信が高まった…約92% ・話をより長くつなげることができた…約90%
  • 1分間話し続けることができた…約90%・話の内容に関連付けて話すことができた…約92%

昨年度末、「英語に自信をもって話すことができる児童」の割合は約50%であったが、上記の結果のように今年度の1学期の間で約90%以上の児童の話すことへの自信を高めることができた。また、アンケートの自由記述欄にて、児童に話す力が向上した要因を尋ねたところ、上位に挙げられたのは「交流での学び合い(全児童の約21%)」「交流の時間がたくさんあること(約17%)」「1分間スピーチの取組(約19%)」「Becauseなどの会話を自然につなぎ、充実させる表現の学習(約8%)」であった。この結果からも、本取組内容は、本校の問題状況を解決するために適切であったこと、児童にさらなる力を身に付けさせるために有効であることが言えると考える。

~取組全体を通して~

本取組全体を振り返り、特に印象的だったのは、児童に自由に学習する余地(ワークシートのノート欄や振り返り欄、交流の時間等)を保証することで、「聞くこと」「話すこと」の学習に限らずに、児童が主体的に学び合い、教師が驚くような各領域の成長を見せたことである。児童に自由な学習活動及びその時間を保証するためには、その活動の土台となる基礎・基本的な力を身に付けさせることが肝要であるので、今後も本取組に継続して取り組み、指導を充実させていく。

(2019年度ELEC英語教育賞 東京都日野市立日野第六小学校の申請書を編集して掲載しました)