[ELEC英語教育賞 2021年度受賞校取組]
横浜女学院中学校高等学校

生徒が主体的に英語で学ぶCLIL授業の実現と一般英語授業への波及

2021年度 ELEC英語教育賞 文部科学大臣賞を受賞した横浜女学院中学校高等学校の取組を紹介します。

1.取組前の課題

生徒が主体的に英語を使って参加する授業への変容の必要性

英語4技能の必要性やコンピテンシーベースの教育の重要性が叫ばれるなか、生徒が4技能を活用しながら主体的に活動する授業を実現する必要があった。しかし受験対策との兼ね合いのためか、教師が日本語を用いて行う講義型の授業からの脱却がなかなか実現しなかった。また主にネイティブスピーカーがオールイングリッシュで授業を進行する授業でも、文法知識の習得を主眼としたコンテンツベースで教師主導の授業が主であった。知識の活用を伴う生徒中心の授業を通して、思考力やコミュニケーション能力などのコンピテンシーをも育成することを目指すような、コンピテンシーベースの授業への変容も求められていた。

ESDや行事と関連したプログラムの必要性

横浜女学院中学校高等学校は2016年度にSGHアソシエイト校に認定され、ESD (Education for Sustainable Development)を全クラスで実施している。SGH事業への申請の際に「ESDのプログラムに対して教科横断的なアプローチを実施する」ことを明記したため、各教科が特色を活かしてESDを実践することが求められていた。

またESDのプログラムは、横浜女学院中学校高等学校が20年以上続けてきたニュージーランド海外研修との連携もなされていた。具体的には各生徒の探求テーマにもとづいて、現地の姉妹校でうける授業の内容を決定し、内容の充実をはかるというものであった。しかし現地で受講する授業の内容はすべて英語であるため、内容の理解に苦労する生徒が多くいた。探求内容を英語で発表する時間も設けてもらったが、事前に準備した英語を朗読する活動にとどまっており、現地の生徒や教員と学習内容について英語でやりとりする場面は見られなかった(ごく一部の帰国生を除く)。

海外大学進学を見据えたプログラムの必要性

横浜女学院中学校高等学校は2018年度より「国際教養クラス」という新クラスを設置した。このクラスは海外大進学も見据えたプログラムを提供するコースであるため、授業内容を英語で学ぶ練習をするような授業を行う必要があった。しかし「国際教養クラス」は帰国生などの入学を前提としたコースではないため、海外経験のない生徒が「英語で他教科を学ぶ」ことを達成するために段階的なカリキュラムを作成する必要があった。

2.改善目標  

  1. 「ESDを英語で学ぶ」CLIL授業プログラムの作成と実施
  2. ①を実現するためのカリキュラム作成 
  3. ①を応用したHard CLIL授業プログラムの作成
  4. ①を応用して行う検定教科書を用いたCLIL授業プログラムの作成
  5. 上記を達成するような研修などの教師教育の機会提供 
  6. CLIL授業における評価方法の工夫

3.目標達成に向けた具体的な活動内容

「ESDを英語で学ぶ」CLIL授業プログラムの作成と実施

2016年度より本校ESDプログラムの探求領域である「生物多様性」「多文化共生」「エネルギー問題」「世界平和」の4領域を扱うCLILの教材を作成した。教材は生徒の英語運用能力や興味関心に配慮し作成した。特にニュージーランド海外セミナーを見据えた教材とするため、日本とニュージーランドの状況が比較できるような教材の構成にした。2021年度には更にこれらの内容を身近な文脈で学べるような教材を作成した。これらの教材を用いたCLIL授業を2017年度より段階的に行ってきた。

①を実現するためのカリキュラム作成

2017年度より上記の教材を用いて段階的にCLIL授業が開始された。当初は英語が得意な生徒が集まる特進クラスの英語の授業内に週2回の頻度で実施されたが、より多くのクラスでCLIL授業を実践するためのカリキュラムを作成した。具体的には中学3年次に本格的なCLIL授業の開始を目指し、中学1年次後期から中学2年次前期にjournalの執筆とそれを用いた発話活動を行い、四技能の基礎力を高める活動を必須とした。また中学2年次後期に身近な話題に関係する問いに対する自分の意見を80 words程度で書き、それをもとにクラスメイトとディスカッションする活動を必須とした。これらの活動を通して中学3年次からCLILに挑戦し、その活動をもってニュージーランド海外セミナーの準備活動とするおおまかなカリキュラムを作成した。特に国際教養クラスでは「CLIL」という名前の授業を設定し、このカリキュラムをクラスの特色とした。

①を応用したHard CLIL授業プログラムの作成

2018年度よりCLILに関心を持つ他教科の教員と協働して授業を設計・運用しはじめた。これは次の3点を達成するために行われた活動である。

  1. (1) CLILに関心を持つ教員の輪を広げる
  2. (2) CLIL授業のバリエーションを増やすことで、より生徒の興味関心に即した授業を実践する
  3. (3) 「英語で他教科を学ぶ」経験を通して、海外大進学へと視野を広げる

結果的にこのHard CLILの授業プログラムが2020年度以降活躍することになった。コロナ禍に伴いニュージーランド海外セミナーが中止になってしまったため、教材内容にニュージーランドの情報を多く含むsoft CLILの教材が使えないことになってしまったからだ。2020年度以降は主にこのHard CLILのプログラムを使ってCLIL授業がすすんでいくことになった。

具体的には「聖書」「美術」「地理」「生物」の学習内容を生徒が主体的に英語で学ぶことができるプログラムを作成した。すべての教科で教材を作成し、soft CLILと同様生徒運用能力と興味関心に配慮して教材を作成した。

①を応用して行う検定教科書を用いたCLIL授業プログラムの作成

2019年度より検定教科書を用いたsoft CLIL授業を設計しはじめた。この授業は主に高校の「コミュニケーション英語」の授業で週4回の頻度で不定期に実施された。目的は次の3点である。

  1. (1) より多くのコミュニカティブな授業の提供
  2. (2) CLIL授業を担当できる教員の育成
  3. (3) 蓄積されたCLIL授業のノウハウを活かした授業準備支援

この取組は2019年度の高1、2020年度の高2、2021年度の高2全クラスで実施された。上記の活動①~③は主に国際教養クラスや特進クラスに向けて行われたものだが、本活動はその学年に属するすべての生徒に向けて行われたため、大きな意義があった活動であったといえる。 取組にあたっては活動①~③を主導してきた本取組の担当責任者が検定教科書をCLIL化するためのワークシートとマニュアルを作成し、CLILを担当したことがないが関心をもつ先生と共有した。実践にあたってはワークシートを受け取った先生が主に担当し、取組担当責任者が教室に入ることはなかった。

上記を達成するような研修などの教師教育の機会提供

2016年度の活動開始から、年2~3回プログラム実現のための打ち合わせや公開研究授業を通して、内部の意識と知識の統一をはかってきた。研修内容としては、カリキュラム開発、教材開発、授業実践とその振り返り、授業公開と協議、などである。

CLIL授業における評価方法の工夫

2020年度よりコンピテンシー育成も意図したCLIL授業の効果的な評価方法に対する研究を開始した。2020年度は日本私学教育研究所の委託研究として本テーマを扱った。

2021年度よりCLIL授業における生徒の主体性育成に更にアプローチするための評価方法を日本英語検定協会の委託研究として実施している。これらの研究成果はその都度校内のCLIL授業実践に還元し、より良い授業実施のために活かしている。

上記①~⑥の活動内容と実施時期を以下の表にまとめた。

年度201620172018201920202021
活動①
活動②
活動③
活動④
活動⑤
活動⑥

4.得られた成果とその評価  

G-tecと英検の結果の分析

本校では中学3年次と高校1年次の1月にG-tecを実施する。2017~2020年度のスコアを比較すると、CLIL授業により特にspeakingの数値の伸びが顕著であった。CLIL授業では基本的に生徒同士が英語でやりとりする機会が極めて多いため、結果として数値が伸びたと解釈できる。speakingについでlisteningの伸びが平均して高いのも、英語によるコミュニカティブな指導が行われた結果と考えられる。

また英検に関しては、CLILが2年以上実施された学年において英検2級の取得率が他の学年より高いことがわかった。これは高校1年次の英検準2級の取得率が学年間であまり変わらないことを踏まえると、CLILの効果を反映したデータであると考えられる。担当者の主観では、CLIL導入以前は面接試験で不合格になる生徒の割合が多かったように感じる。ゆえに2017年度には高3生のために面接試験の対策を英検1次試験後に何度も繰り返し行ったことがある。しかし、2018年度以降はそのような特別対応をする生徒の数が大きく減ったように感じる。この「話す技能」の伸長への体感は、前述のG-tec speakingのスコアの伸長によって裏付けられると解釈することもできる。ゆえにこれらのデータによって、「取組前の問題状況①」が部分的に解決されたと解釈することができる。

上智大学教授池田真教授による授業評価

2018年度より公開研究授業を実施し、日本CLIL教育学会副会長の上智大学池田真教授にフィードバックを受けてきた。公開当時より様々なご指摘をいただいてきたが、2021年度は「CLIL授業のひとつの完成形」という評価を受けた。CLILは英語力の伸長だけではなく、コンピテンシー育成も目標としている。ゆえに池田教授の評価から、「取組前の問題状況①」は部分的に解決されたと解釈することができる。またCLIL授業において生徒は他教科を英語で学習するため、海外大進学の準備活動としても機能する。ゆえに池田教授の評価から、「取組前の問題状況③」も部分的に解決されたと解釈することができる。なお、公開研究授業には毎年100名以上の見学者が参加し、授業公開後は参加者間でCLILについて活発な議論が学校の枠を越えて交わされた。これにより、他校の英語教育実践に少なからぬ影響を及ぼすことができたのではないかと解釈できる。

ニュージーランド海外セミナーでの交流の深化

前述の通りニュージーランド海外セミナー参加時の現地校と学習内容に対する深い対話をする機会が欠如していることが問題視されていたが、CLILを導入した2017年度以降から学習内容にかかわる偶発的で高次な対話が見られるようになった。学習内容の成果報告ののちの質疑応答が、たどたどしい英語ながらも成立していた。発話者(中学3年生)は中学1年次から英語を習い始めた生徒で、渡航前は人前で英語を話すことに忌避感を示す生徒であった。しかし当日は今までの学習成果を示すため、粘り強く相手の英語を理解し返答しようとする様子が見られた。このような素晴らしい成果を残せたことで自らの発話に自信を得て、この生徒はこの後より一層一生懸命コミュニカティブな授業に取り組むようになった。CLILプログラムの集大成を示す瞬間のひとつであったと感じる(最新の海外研修の成果も示したかったが、コロナ禍によってプログラムが中止となってしまったのは前述のとおりである)。よって「取組前の問題状況③」が部分的に解決されたと解釈することができる。

生徒のプレゼンテーションの深化

本校のCLIL授業では、最終的に学んだ内容を発展させて生徒が自ら考えて実行した事柄を報告するプレゼンテーションを行うことが一般的だ。またプレゼンテーションの後には聴衆からの質疑に英語で応じるタスクも設けており、コミュニカティブな指導の機会にもしている。年度ごとにどのようなプレゼンテーションが見られたかを、次頁の表にまとめた。

年度授業テーマ例プレゼンテーションの内容の例
2017生物多様性絶滅危惧種について調べたことを発表
2018多文化共生近隣のインターナショナルスクールに自主的に赴き、日本の暮らしやすさについてインタビューした内容を報告
2019生物多様性特定の種が絶滅に追いやられた原因について調べ、家の近くの浜辺でゴミ拾いをしたことについての報告
2020地理食品輸入の環境コストを踏まえ、環境に優しい食生活を実践しその結果を報告する
2021多文化共生アメリカのアジア人差別の現状について、現地の友人とZoomをつないでインタビューした結果の報告

数多く行われたプレゼンテーションの一例でしかないが、特に2018年度以降は生徒が主体的に学習に参加した成果が示されていると判断できる。ゆえに「取組前の問題状況①」が部分的に解決されたと解釈することができる。

検定教科書を用いたCLIL授業に対する教員の評価

上記①~④の成果は主に英語が得意な特進クラスや、CLIL用のカリキュラムを設定した国際教養クラスで見られた成果である。ゆえにこれだけでは、学校全体の取組の成果とは必ずしもいえない。しかしこれらのクラス以外でCLIL授業を実施した教員からの評価は、上記の成果が今後学校全体により大きく波及していく可能性を十分に含むものであるといえる。

2021年度に継続して検定教科書を用いたCLIL授業を全クラスに実施している教員は、「生徒が思っていたより自分たちでよく取り組んでくれたので、全クラスで実施した価値がある」「英語運用能力が低いと思う生徒でも活躍する瞬間があり、CLILの奥深さを感じる」と評価してくれた。この先生は本校での勤務が比較的長いベテラン教員であるため、CLILへの挑戦に不安や葛藤もあったようだが、結果的にこのような自己評価になったのは非常に喜ばしい。授業後に行った生徒の自己評価の数値も高く、生徒の満足度の高さもうかがえる。

CLIL授業に携わる教員の増加

以下にCLIL授業に関わってきた教員ののべ人数(他教科の教員含)を示す。はじめは一部の取組として始まった本事業が、学校内で少しずつ普及していったことがわかる。

年度20172018201920202021
教員人数511192325

2020年度以降はコロナ禍の対応に追われ数値を十分に伸ばすことが難しかったとはいえ、この数値の変化と上記成果⑤により「取組前の課題状況①~③」の解決が、今後ますます多くのクラスで見られることが十分に期待できる。

総評

はじめは特進クラスなどで導入されたCLIL授業であるが、継続的に運用することによって通常の英語授業への波及効果も見られた。CLIL導入によって特に生徒の「話す力」が伸長したことの裏付けは、数的データだけではなく海外研修のやりとりの充実によっても質的に観測できる。今後も校内でCLIL授業を実施していくことで、内外に大きな波及効果をもたらしていきたい。

(2021年度ELEC英語教育賞 横浜女学院中学校高等学校の申請書を編集して掲載しました)