[ELEC英語教育賞 2016年度受賞校取組]
岐阜県大垣市立星和中学校

「考えながら英語を話す」生徒を生み出すための授業作り

2016年度 ELEC英語教育賞 理事長賞を受賞した岐阜県大垣市立星和中学校の取組を紹介します。

1.取組前の課題

昨年度,「考えながら英語を話すことができる生徒の育成」に向けて指導していく中で,単元終末の活動では,ものや人を紹介するPresentationの活動が多く設定され,一方的に紹介するだけではなく,やりとりをしながら提案をしたり,聴き手は感想を述べたりするなど,自分の思いや考えを即興的に話す姿が見られるようになった。しかし,言語活動としてPresentationの活動が多く,相手に伝える内容を事前に準備し覚えたものを伝えることが中心となるため,即興的で双方向的な対話に苦手意識をもっている生徒が見られる。

2.目標としたこと

今年度,より即興的・双方向的に話ができる姿を目指し,以下の研究主題で実践を行っている。

【研究主題】

考えながら英語を話すことができる生徒の育成

~既習表現を活用しながら対話的な言語活動を充実させる指導を通して~

昨年度,「考えながら英語を話す」の中身を,「内容」と「話し方(非言語要素)」と捉え指導をしてきた。今年度は,これらを「内容」「言語材料」「話し方(非言語要素)」の3つと捉え直し,「考えながら英語を話す」ことができる生徒を育成するための手立てを整理した。ただし,「話し方(非言語要素)」については小中を通して普遍的な部分が大きいと考え,特に「内容」と「言語材料」に重点をおき,研究を進めている。

このように,一方的で準備された「発表の要素が強い」言語活動だけでなく,より即興的で双方向的な「やりとりの要素が強い」言語活動を設定し,「内容」と「言語材料」を考え,小学校から身に付けている「話し方(非言語要素)」を用いる指導を継続すれば,「考えながら英語を話す生徒」を育成することができると考えた。

研究内容を以下の3つとした。

【研究内容】

  1. (1)即興性・双方向性を身に付けさせるための指導計画の作成
  2. (2)即興性・双方向性を身に付けさせるための指導方法の工夫
    • ①帯活動
    • ②教科書本文の読み取り
    • ③語彙指導
  3. (3)即興性・双方向性の高まりを実感させるための評価方法の工夫

3.具体的な活動内容

即興的・双方向的に話させるための技を、下のように,Communication Technique A, B, Cという3つの技に整理した。

これらの技を,年間を通して,系統的に指導するため,以下のような指導計画を作成した。

Communication Technique Cについては,Interview活動を中心として,つながりのある対話を継続させるために,3つの技を指導する。①Unit1-3での「興味を示す技」,②Unit5-6での「知らないことを具体的に聞き出す技」,③Unit10での「話題を決める技」である。この3つの技を身に付けさせることで,即興的に特定の話題についての対話を継続し,必要に応じて話題を変えていくことができるようになると考えた。

また,Communication Techniques Bでは,Presentation活動を中心として,相手を巻き込みながら話すために2つの技を指導する。①Unit4, 9での「相手を巻き込む技」,②Unit7-8での「相手の好みに合わせて提案する技」である。この2つの技を身に付けさせることで,一方的に話すのではなく,聴き手とやりとりしながら話せるようになると考えた。その際,Communication Technique Aは,まとまった英文を即興的に発話する際の土台になるため,同時に指導していく。

また,生徒たちは,Communication Techniqueで使用する言語材料を小学校の英語活動で繰り返し使用しているため,抵抗なく使用させることができている。

例)Do you like red? – No, I don’t. / Do you know this? – I know. This is ~. / What ~ do you like?「どんな服で出かけよう(5年)」「I LOVE JAPAN(6年)」「友だちデータバンクを作ろう(6年)」

中学校では,こういった学習を土台とし,相手の発話内容に応じて,話題を変えたり話を深めたりしながら,柔軟に対話を展開していく姿を目指す。

即興性・双方向性を身に付けさせるための指導として,①帯活動,②教科書本文の読み取り,③語彙指導の3つの点を改善し,指導にあたった。

帯活動

本年度,Speed InputとFree Talkという2つの帯活動を設定した。Speed Inputは,単元終末の英文をいつでもアウトプットできる状態まで繰り返し練習させる活動である。そうすることで,生徒たちは単元終末の活動のイメージをもたせることができる。

また,特に英語が苦手な生徒にとっては,Speed Inputをもとに,生徒は語彙を変えることで自分の考えを表現することができ,補助プリントとしての役割も果たしている。 また,即興性・双方向性を身に付けさせるために,身近な話題について,ペアで自由に対話する活動であるFree Talkを設定した。最初は,対話が2~3往復程度で終わってしまったり,英語が苦手な生徒にとっては何を話せばいいのかが分からないまま終わってしまったりする姿が見られた。そこで,Speed Inputの後に,その表現をもとに対話できるFree Talkを設定することで,つながりのある対話ができるように工夫し,活動の中で位置付けた。

このように2つの帯活動を設定することで,Speed Inputをただのドリル練習に終わらせることなく,Free Talkで場面や状況を意識しながらコミュニケーションを楽しみ,満足感・達成感の味わえるものにしてきた。また,Free Talkの中で,単元を通して,その単元で身に付けてきたコミュニケーションを円滑にするための「技」の指導を継続している。

教科書本文の読み取り

教科書本文を読み取る際,事実発問だけでなく,推論発問を交えることで,対話や発話の場面や状況,登場人物の気持ちを読み取らせてきた。そして,読み取った場面や状況,登場人物の気持ちをもとに行う表現活動を位置付けてきた。例えば,まずOral Interactive Introductionや事実発問で対話の大まかな内容を確認する。その後,推論発問をすることで,生徒はもう一度自分で本文を読み,読み取った本文の内容を根拠にしながら登場人物の気持ちを考える。その上で,単位時間の終末の活動を意識しながら,「聴き手を巻き込みながら話をする技」を使い,場面や状況,登場人物の気持ちを踏まえて,教科書から読み取れた事実に自分の気持ちや考えを加えて話す姿を目指す。

このように,単元を通して,場面や状況を捉えて相手に合わせて話す,「即興性・双方向性を生み出す技」を繰り返し活用させている。

語彙指導

研究内容(1)に挙げたコミュニケーションを円滑にする表現が“技”であるならば,語彙や文法事項は「武器」であると捉えている。その「武器」をいつでも取り出せる状態にしておくために,ア)Word Bank with the Situationとイ)Vocabulary Builderという2種類の語彙集を作成し,活用させた。

ア)Word Bank with the Situation

小学校の外国語活動に必ずあって,中学校の外国語活動に欠けているものは,言語活動に必須の語彙指導であると考えられる。小学校では,必ず言語活動に必要な語彙を教えるが,中学校では,教科書本文で使われた単語を教えるに留まり,単元の終末の言語活動で必要となる語彙を十分に教えているとは言えない。そこで,中学校でも,単元終末の活動を行う際には,生徒にとって必要となるであろう語彙を小学校のようなWord Bankとして示すことが必要なのではなないかと考え,Word Bank with the Situation(表2)として生徒に与えている。状況に応じて既習・未習の単語をまとめておくことで,より円滑にコミュニケーションができるだけではなく,学年をまたいで繰り返し語彙指導ができ,定着させることができると考える。

イ)Vocabulary Builderについて

教科書本文で扱われている単語については,Vocabulary Builder(表3)を作成し,指導にあたった。Vocabulary Builderには新出単語を掲載するだけでなく,反義語・同義語,語と語のつながりを意識した連語なども同時に掲載した。また,前置詞は例文を示すことで,その前置詞と結びつく語を意識できるようにした。そうすることで,教科書で既習,未習にかかわらず,関わりのある語をつなげて覚えられるようにしている。また,全員に単元の初めにVocabulary Builderを配布しておくことで,授業でシートを用いて覚えるまで個人やペアで繰り返し練習したり,家庭で練習したりできるので,語彙の定着にもつながると考える。

(表2 Word Bank with the Situationの例) 

(表3 Vocabulary Builderの例)

各単元の学習を通して,英語能力がどれだけ高まったのかを実感させる手立てとして,「話すこと」「聞くこと」におけるCAN-DOリスト形式の学習到達目標表(以下,CAN-DOリスト)を活用している。CAN-DOリストとは,前述の4つの言語活動のそれぞれについて,言語能力の絶対基準を示したものである。小学生から中学3年生までを想定して作成した。今年度は,下の(表4)の様に,このCAN-DOリストをもとに,授業中の各活動や単元終末の活動で,教師が客観的な指標を生徒に与えて評価させている。

(表4CAN-DOリストを基にしたルーブリック評価表)

来年度以降は,生徒自身が自己評価の指標とするなど,自らの英語力の高まりを実感させるための手立てとして活用していくとともに学年を超えて活用させていけると考える。 この事業を進めるにあたって,4領域における「学習到達目標」(CAN-DOリスト)を作成し,各学年修了段階での目指す姿を設定した。拠点校事業で共に研究を進めている大垣市立中川小学校・大垣市立小野小学校・岐阜県立大垣西高校の先生方と原則月に一度行っている合同推進委員会の場などで,中1の出口の姿にするために,小6で「ここまではできるようにさせたい」,高1の出口の姿にするために,中3で「ここまではできるようにさせたい」ことを話し合った。各学年の修了段階の目指す姿を決め出し,共通理解することで,カリキュラムの連携を図っている。カリキュラムを連携することで,目標とする姿に対して,言語活動のつながりを意識して工夫したり,教材の共有や指導方法の連携をしたりすることができ,生徒の力を効果的に伸ばすことができると考えている。この事業の一環として小学校や高校と協同授業も行うことで,小中高の連携を図った成果を児童生徒の姿で確かめ合うことができ,児童生徒にとっては上級生の姿が憧れとなり,学習意欲の向上にもつながっている。

4.得られた成果・今後の課題

本校が26年度より岐阜県英語教育イノベーション戦略事業・英語拠点校区事業指定を受けて,3年目になる。27年度3年生の英語の授業に対する意識調査アンケートでは,「即興的な発話をしているか」という問いに対し,「している」「どちらかというしている」と答えた生徒が,7月には全体の38%から11月には64%へと上昇した。また,「コミュニケーションの継続をしているか」という問いに対し,「している」「どちらかというとしている」と答えた生徒が,7月には全体の32%から11月には60%に上昇した。また,今年度7月に行った意識調査アンケートでは,昨年度1年生と今年度1年生を比較すると,「即興的な発話をしているか」は「している」「どちらかというしている」と答えた生徒が全体の27%から51%へと上昇した。また,「コミュニケーションの継続をしているか」という問いに対し,「している」「どちらかというとしている」と答えた生徒が,全体の23%から46%に上昇した。これまでに系統的な指導を授業の中で行ってきた結果だと考えている。

また,本校では,各学年学期に1回程度をパフォーマンステストと英検IBAを行い,客観的に生徒の英語力を評価している。パフォーマンステストとしては,27年度11月に3年生において,小学校や高校の先生方,教育委員会や事務所の主事にも評価者として参加してもらい,「パフォーマンステスト」を行った。(写真2)結果としては,ほぼ全員の生徒が評価規準をクリアーすることができた。英検IBAの結果としては,英語検定3級程度取得レベルが62%であり,県や国が現在目指 している英語検定3級程度取得者50%を大きく上回っている。

(写真1 パフォーマンステストの様子)

このように,本校では,より即興的に「考えながら話す」ことができる生徒の育成に取り組んでいる。今後もより即興的に「考えながら話す」生徒の育成に努めていきたいと考えている。

(※2016年度ELEC英語教育賞 岐阜県大垣市立星和中学校の申請書を編集して掲載しています)