未来を拓く英語教育: 新学習指導要領に基づく授業実践

土屋 進一 (西武学園文理高等学校教諭)

0. はじめに

高等学校では、2022 (令和4)年4月より新学習指導要領に基づいた授業が行われている。今回の学習指導要領の改訂は、これまでの学習指導要領改訂の変遷の中でも極めて大きな変革となっている。それは、従来の教師による知識伝達型の授業から主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)の考え方に基づく授業への転換である。その背景として、平成28年12月の中央教育審議会答申を踏まえ、 「高等学校 学習指導要領(平成30年告示) 解説外国語編英語編』には、高等学校での課題が明確にされており、今回の新学習指導要領導入に至っている。

また、指導だけでなく、 評価も大きく変わった。ペーパーテスト中心の評価からパフォーマンステストで話すこと(やり取り・発表)の評価が導入され、4技能5領域別にそれぞれ3観点からの評価も行われている。

本稿では、新学習指導要領がスタートして2年目を迎えている今、今一度、新学習指導要領の目標とその内容について立ち返り、私たちの指導を改めて見直しつつ、グローバル社会で英語を用いて活躍できる生徒の育成につなげる視座について述べたい。

1.外国語科(英語)の目標

1.1 外国語科(英語)の目標とその意味

 現行の高等学校学習指導要領では、以下のように外国語科の目標が掲げられている。

外国語科の目標の要点としては、「学力の三要素」とそれぞれに関わる外国語特有の資質・能力を育成する必要があり,その際,外国語教育の特質に応じて,生徒が物事を捉え,思考する「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」を働かせることが重要であるとしている。以下では、「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」について述べることにする。

1.2 外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方について

「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」とは外国語によるコミュニケーションの中で、どのような視点で物事を捉え、どのような考え方で思考していくのかという、物事を捉える視点や考え方であり、「外国語で表現し合うため、外国語やその背景にある文化を、社会や世界、他者との関わりに着目して捉え、コミュニケーションを行う目的や場面、状況等に応じて、情報を整理しながら考えなどを形成し、再構築すること」である。ポイントとして以下の点が重要であることを示している。

出典)高等学校学習指導要領解説 外国語編・英語編Q&A(鹿 児 島 県 総 合 教 育 セ ン タ ー)

この「見方・考え方」を確かで豊かなものとすることで、学ぶことの意味と自分の生活、人生や社会、世界の在り方を主体的に結び付ける学びが実現され、学校で学ぶ内容が生きて働く力として育まれることになる。例えば、仮定法の運用面に関して、日本を訪れている外国人観光客に寿司を勧めるという場面で、相手が自分の提案をやんわりと丁寧に断る目的としてI wish could eat sushi, but actually I’m a vegetarian.のように相手に配慮した前置きとして仮定法を用いることを学ぶことは、話し手や聞き手の意図などを的確に理解したり、これらを活用して適切に表現したり伝え合ったりすることができる力を育成することにつながろう。このように、個々の文法事項である知識を実際のコミュニケーションにおいて、目的や場面、状況などに応じて適切に活用できる技能を身につけるためには、具体的なタスクの中で言語活動を行わせることが何より重要である。そして、実際のコミュニケーションの場面で、それらを活用できるようにするよう主体的、自律的に英語を用いてコミュニケーションを図ろうとする態度も同時に育成しなければならない。

1.3 「言語活動」について

学習指導要領外国語編では、以下のように言語活動について述べられている。

この解説を咀嚼すると、外国語教育における言語活動とは、実際に英語を用いて互いの考えや気持ちを伝え合う活動を意味すると言えよう。 逆に、英語を用いてはいるが、考えや気持ちを伝え合うという要素がないような単純な発音練習や意味を想起せずに行うような音読活動は言語活動であるとは言えないであろう。

2.どのように授業を行うか

2.1 目的や場面状況等に応じたコミュニケーションを意識した授業

これまで、外国語科(英語)の目標、外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方、言語活動について見てきたが、新学習指導要領におけるこれらのエッセンスを踏まえた授業とはどのようなものになるであろうか。以下では、論理・表現Ⅰの教科書『FACTBOOKⅠEnglish Logic and Expression』(桐原書店)で扱われている具体的な言語活動を取り上げ、これまでの議論と照らし合わせながら考えてみたい。

図1は、言語活動を通して,ツーリスト・インフォメーション・センターでボランティアをしている場面において,外国人観光客の要望を聞きながら,おすすめのレストランを紹介できるようにするタスクである。観光案内所の場面を設定し,ボランティアスタッフと外国人観光客になりきっておすすめのレストランを紹介する。

 (図1)

タスクを通じて,仮定法について文法学習の 3 要素(form, meaning, use)を意識して取り組ませる。仮定法は主に中学 3 年で,if, I wish を使った仮定法過去の用法を扱っているが,十分に定着しているとは考えにくい。ありえないことという気持ちを表す仮定法の本質を仮定法過去の復習から始め、高校での新出事項について生徒に理解させ、実際に使えるようにしていきたい。Speak ①では,既習事項である仮定法過去の基本的な使用例を中心に紹介している。タスクにおいて、実現できない願望を表現することで相手の提案をやんわりと断る場面や「提案」を表す場面などで,仮定法過去を使うことができることを生徒に気づかせたい(図2)。

 (図2)

2.2 気づきを大切にした文法事項の指導

文法事項の指導に当たっては、次の事項に配慮することが求められている。

前節2.1で仮定法の指導実践例で示したように、文法は実践的コミュニケーション能力を育成するタスクの中で使用する場面や伝えようとする内容と関連付けて指導する必要があろう。そのためには、コミュニケーション活動の中で、まず、自分に何が不足しているかを体験させる。その上で、どんな表現や文法が必要かを気づかせ、必要な表現や文法を与え、練習を行った上で再度同じタスクに取り組ませる。こうした手順を踏むことで、繰り返しの中で確かな成長実感と学びの充実感を得るような授業を行うことが可能となろう。

2.3「主体的・対話的で深い学び」と授業改善

高等学校学習指導要領 外国語(平成30年告示)第3款 1(1)には、「主体的・対話的で深い学び」について次のように記載されている。

このように「主体的・対話的で深い学び」は授業改善の視点であり、特定の指導方法ではない。生徒の資質・能力を育成するために,今までの授業を振り返り,学習の質を一層高める授業改善の取組を活性化していくことが求められている。すなわち、「主体的・対話的で深い学び」の実現のために、教員による一方通行の授業から,生徒自身が主体的・能動的に参加する授業が求められる。さらに、生徒が必然性を感じながら,主体的に取り組む学習課題を設定し、教科書で取り扱った内容を「自分事」として考えられるように課題を設定し,4技能を総合的に育成する言語活動を行う必要である。

例えば、論理・表現Ⅰの授業において、生徒それぞれが自分の生活習慣について9つの項目にチェックした後、自分と相手が変えたい生活習慣について,適切に英語で反応しながら,会話を継続するという言語活動は、自分と他者の生活スタイルを比較することができるので、大変盛り上がる活動の一つである(図3)。

(図3)

2.4教科等横断的視点を持った授業

学習指導要領には、第3章 各科目にわたる指導計画の作成と内容の取扱い 第 1 節 指導計画作成上の配慮事項において、言語活動における国語科との連携について次のように述べてられている。

例えば、川端康成の小説『雪国』とサイデンステッカーの英訳 ”Snow Country” を教材として、日本語と英語の語彙や表現,論理の展開などの違いや共通点に気付かせ,その背景にある歴史や文化,習慣などに対する理解が深められるような例が考えられる。土屋 (2022)では、『源氏物語』の中の「桐壺」において、原文とその英訳を比較し、グループワークを通じて生徒たちが原文と英訳の違いを分析した。最終的には、生徒たちはオリジナルの英訳を作成し、英語と古典の統合的な学びを通して、文化理解と言語能力の向上を促進する試みがなされている。参考映像もあるのでぜひご覧いただきたい。

また、他教科等で学習した内容との関連付けに関して次のように述べられている。

例えば、地理歴史や理科との連携については、世界各地で見られる地球環境問題、資源・エネルギー問題、生態系のバランスと保全などについて学習した内容と関連する話題について、CNNニュースなどのオーセンティックな素材に触れ、内容を理解するとともに、英語でディスカッションを行うことが考えられる。

2.5 探究的な視点を持った授業

学習指導要領解説の「第3章 総合的な探究の時間」第1目標には、次の(1)~(3)のように学力の三要素に沿ったエッセンスが端的に示されている。

これらの探究的な視点を持った学びを外国語でも積極的に取り入れたいところである。例えば、英語コミュニケーションⅠの教科書(三省堂『MY WAY English CommunicationⅠ』Lesson 1 Proverbs Around the World )で扱われている具体的な言語活動を取り上げ、探究的な視点を持った授業案を考えてみたい。

本課では、世界のことわざを通じて、異なる国々の言語と文化に触れ、言葉の裏にある意味や背景を理解する力を養い、言語と文化の多様性を尊重する重要性を学ぶことが目的となっている。扱われている次の2つのことわざ(①”Don`t ride an elephant to catch a grasshopper.”②”In a piranha-filled river, an alligator swims backstroke.”)について、単に意味を調べ、解釈するだけでなく、生徒に自分のSNSアカウント(X(旧Twitter)、Facebook、Instagramなど)を使用して、専用のハッシュタグを作成し、それを用いてそれぞれの国(①がタイ ②がブラジル)のことわざがどのような目的や場面・状況等で用いられているのかを英語でアンケート調査するように促すことも可能であろう。さらに、SNSで発信したアンケート結果をクラスで共有し、その情報をもとに2つのことわざの意味と使い方についてディスカッションを行えば、教科書の内容とリアルな現実世界を結びつける授業が可能となろう。

3. 今後どのような授業を目指すべきか

これまで、学習指導要領外国語目標を踏まえた指導について述べてきたが、その目標が教育現場で十分に浸透してきたその後は、どのような授業を目指していくべきであろうか。もちろん、学習指導要領に基づいた授業を行うのは言うまでもないことだが、一部では、非認知能力の育成に資するような学習指導要領を超える大胆かつ先進的な授業も目指していくべきであると考える。例えば、土屋 (2023)では、小塩(2021)で提唱されている15のカテゴリーを4つのカテゴリーに再編し、これまでの筆者の英語授業の取り組みの中から、非認知能力の育成に資すると思われる具体的な実践例を3つ(①「マシュマロチャレンジ」を取り入れた英語授業 ②SDGsを取り入れた英語プレゼンテーションの授業 ③模擬国連を取り入れた授業)取り上げている。また、早稲田大学政治経済学部の総合問題へのアプローチとして数学の教員と協働で英語の授業を行う様子を詳細に紹介している土屋 (2023)もぜひ参照されたい。

4. おわりに

 外国語科(英語)の学習指導要領に基づき、外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方を働かせ、言語活動を通じて、教科書の内容を自分の生活や社会と結びつけて考える態度を育てる授業を行うことがまず求められよう。さらに、教科等横断的視点に立ち、教員自らが探究し、生徒の学びの質を高め、多様な視点を取り入れた授業を提供することが必要であろう。

参考文献

飯野 厚他編 (2022) 『MY WAY English CommunicationⅠ』三省堂.
岡部幸枝・松本茂編 (2010) 『高等学校新学習指導要領の展開 外国語科英語編』明治図書.
小塩真司編 (2021) 『非認知能力: 概念・測定と教育の可能性』北大路書房.
鹿児島県総合教育センター(2019)「高等学校学習指導要領解説Q&A外国語編・英語編」
菅正隆・松下信之 (2022) 『高等学校外国語新3観点の学習評価完全ガイドブック』明治図書.
土屋進一 (2022)「『源氏物語』「桐壺」を用いた古文×英語の教科横断型授業」CHART  NETWORK, pp.5-7. 数研出版.
土屋進一 (2023a) 「教科横断による新しい入試への対応 -早稲田大学政治経済学部 総合問題へのア        プローチ-」東京書籍 E ネット.
土屋進一 (2023b) 「非認知能力を育む英語授業実践例」東京書籍 E ネット.
長沼君主他編 (2022) 『FACTBOOKⅠEnglish Logic and Expression』桐原書店.
本多敏幸 (2018) 『中学校新学習指導要領 英語の授業づくり』明治図書.
文部科学省 (1998) 『高等学校学習指導要領(平成11年12月) 解説-外国語編・英語編-』
文部科学省 (2018) 『高等学校学習指導要領​1​(平成30年告示)

参考映像

「他教科の学習内容を英語で学ぶ授業で、生徒の思考を深め、複眼的な視野を養う」『VIEW next高校版』2022年度 4月号,ベネッセ教育総合研究所, pp.40-43 (VIEW next ONLINE)

https://view-next.benesse.jp/view/article05116

(つちや しんいち)