どの学校でもできる教科書を使った四技能統合型授業:リーディングから発展する活動 : 7月29日 英語教育研修会 担当講師

岩田 哲(北海道武蔵女子短期大学教授)

英語教員はどのような授業展開をするべきでしょうか。シンプルな問ですが、明確な回答は難しいかもしれません。それは様々な条件が関わるからと言えるでしょう。教員の英語力はすべてのベースになると言ってよいですから、当然教員の側の要素もありますが、学習者が置かれている学習環境もそれぞれ異なります。中学までは地域が大きく関わるでしょうし、高校では集団としての学力や進路希望なども関り、動機づけなどにも影響することが考えられます。

ここでは、教員側の問題は自身も学習者として、また授業者として日々努力する覚悟があることを前提として、できるだけ学習者側の環境には柔軟に対応できるように、共通項に焦点をあてながら考えていきたいと思います。インターネットの普及により英語に触れる機会をはじめ、近年のICT活用の促進など、学習者の環境は劇的に変化しています。教員に無限の時間と精神力があれば、その時々に合わせた最適と思われる教材を準備できる可能性もありますが、特に日本の教育現場では、教員の業務は多岐にわたり、割ける時間と労力には制限があります。ここでは、学校での授業という面では「教科書」を使用するという共通点に目を向け、環境の異なる学校で、それぞれ異なる教科書を使用しながらどのような指導が可能か考えてみましょう。

指導法を扱う本をはじめとする情報もたくさんあり、その道で著名な教員や研究者も多数おりますが、そのうちの一人、日本のように外国語として英語を学ぶ環境での言語教育に精通する研究者、Paul Nationは、バランスの取れた授業として、次の4つの要素または活動が、1回の授業にではなく、コース全体を通して見ると、ほぼ均等に扱われるべきであると述べています (Nation, 2013)。

(1)   Meaning-focused input
(2)   Meaning-focused output
(3)   Language-focused learning
(4)   Fluency development

上の(1)と(2)は、「意味中心」とわざわざ断られている通り、(1)では読んだり聞いたりというインプットの特に内容理解に焦点をあて、(2)では書いたり話したりというアウトプットに焦点をあてています。理解可能ということが大切で、あまり細かな文法などにはこだわらないと考えてよいと思います。(3)は語彙文法などドリルを含めた意識的なルールなどの学習で、(4)は今ある知識を使って英語を使用する流暢さを高める活動と言えるでしょう。

さて、インプットもアウトプットも言語学習ではとても重要で、教室内という限られた時間の中で、最適のバランスについて述べるのは非常に困難と言えます。Nationは4つの活動を全体として概ね同じくらいにとは述べていますが、その根拠は特に示しておりません。また、第二言語習得にはインプット仮説 (Krashen, 1989)、アウトプット仮説 (Swain, 1985)、インタラクション仮説 (Long, 1996)などの様々な仮説がありますが、研究者に共通している考え方として、インプット重視があります。インプットがないと何も始まらず、最も重要な役割を果たすという考え方です。従って、我々英語教員は(1)のインプットを重要視しながら、(3)が多くなり過ぎたり、(2)、(4)の活動も極端に少なくならないように配慮する必要があると考えるのが重要であると思われます。

高等学校の授業を考える場合、取り扱う科目としては、最も単位数が多い英語コミュニケーション系の科目が考えられます。教科書はコミュニケーションを想定してかなり工夫されたものが多数存在します。アクティビティーの量や質は様々ですが、インプットの大元として、教科書本文と音声があるということは共通しています。ここではどの教科書にもある、「本文」を基にして、どのような教室でも可能な活動を主に2つ紹介します。いずれもインプットのリーディングを中心としながら、他の技能へ展開していく流れとなります。

活動1:教科書の内容についてペアで質疑を行う活動
使用技能:R(W)-S(L) / 主な活動:(1)(2)
目的:教科書の内容を深める、批判的思考を養成する

手順:疑問文の作り方を復習し、質問すべき箇所の見つけ方を解説する。その後生徒は各自質問を考えハンドアウトに記入する(添削を行う)。質問は2種類扱い、一つはfact-finding questionで、主に教科書に書かれていることをそのまま質問とする。正解、不正解がある質問で、内容理解の確認が主となるが、“How do you know that?” といった根拠を尋ねる追加の質問を入れることで、事実 (fact)か、意見 (opinion)かを見分ける前段階の練習にもなる可能性があり、共通テストにもつながる活動となり得る。もう一つはapplied questionで、教科書にははっきりと書かれていないことを推測して回答してもらう内容や、教科書の内容に関連する事柄について、相手の意見を問うものとなり、基本的には正解、不正解がない問となるため、ペアワークなどのコミュニケーション活動にも適している。

添削:Meaning-focusedとはいえ、学習者が自信をもって質問ができるように教員が事前に質問の書かれたハンドアウトを回収し、添削をすることが望ましい。質問文の作成はある程度型を教えることで徐々にスムーズになる。また、類似した質問が比較的多くなるので、40人くらいのクラスであれば、添削はおよそ15分程度で終了する。オンラインの場合はさらに時間は短縮できる可能性がある。

活動:ペアワークの形態をとり、1回のやり取りを2分程度の時間制限で行い、相手を変えて3回程度行うとスムーズに運ぶ。特にapplied questionに対しては、相槌のうち方を教え、必ず、 “Oh, you think ~”と相手の言ったことを要約して、繰り返すことで、コミュニケーションで重要な傾聴の姿勢や、共感の姿勢を示し、さらに “ I agree with you.” や “Actually, I have a bit different idea.” などとコミュニケーションがつながるように工夫することができる。話が途切れてしまう場合は、 “How about you?” といった形で、制限時間内は英語でのやりとりが続くようにペアで協力し合うよう指導するとよい。 “How do you think~?” といった共通の誤りは回数を重ねるうちに、やがてなくなっていくことが実感できると思われる。

活動2:教科書の内容に関連する題材で書き、ペアでやりとりをする活動
使用技能:R-W-S(L) / 主な活動:(1)(2)(3)(4)
目的:論理的思考を高め、アウトプットの流暢さを促進する

手順:教科書の内容や関連するトピックについて、生徒自身の考えをまとめ、発表や意見交換を行う。必要に応じてインターネットなどを使用して調べる、またはグループ・ディスカッションなど行い、十分な情報を得てから書かせるようにし、100語~150語程度を目安にするとよい。作文は回収し、添削をしてから返却し、発表につなげるとよい。構成やポイントについてはscaffoldingとして事前に提示するとスムーズに進められると考えられる。当該のUnitで扱っている、特定の文法事項を使うようにすることも可能だが、内容を重視し特に制限は求めない方が望ましい。特定の文法事項を学習させたい場合は別な投げ込み教材などを利用することができる(例:先週の話題なら過去形や過去進行形、過去完了形等、仮の状況設定なら仮定法等)。

添削:添削はかけられる時間などを考慮して、構成について事前指導を行うとよい。文法についてはすべて修正か、SVの一致、和製英語の使用、グローバルエラーなどに絞ることも可能である。教員が燃え尽きないように気を付けたい。簡単なコメントと場合によっては点数を示すと動機づけにつながる可能性がある。

活動:作文を返却し、質問があれば答える。その後5語程度キーワードを選ばせ、各自カードに記入をさせる。ペアを組み、話し手と聞き手(A、B)を列で指定して下図のように分け、話し手はキーワードのみを見ながら作文の内容について相手を変えながら3回話す。流暢性を高める活動とするために、時間制限を設定し、1回目は1分30秒、2回目は1分15秒、3回目は1分というように徐々に短くするとよい。Nationの4/3/2の応用型と言える。聞き手は基本的には頷きながら興味深く聞くことに徹するが、応用として、内容に関して1つ質問をするという活動を入れると聞く方もさらに真剣に活動することになる。また、題材によっては、各回の間の時間にオリジナルテキストを確認する時間を設けてもよいが、いずれにしても書いたものを見ながら話す(棒読みになる)活動にならないよう留意する。この活動は、ぺアで異なる物語を読ませ、リテリング活動とすることも可能である。

その他の活動及び情報提供

時間と紙幅の関係上ここでは扱いきれない情報について以下で簡潔に触れておくこととする。

・教科書等を使った1ユニットの授業構成について、ハンドアウト作成と授業の留意点について提案する。基本パターンを決めたうえで、単調になることを避ける指導方法が必要になると考えられる。

・教科書で扱った文法事項に焦点をあてながら、学習者個人のコンテクストを利用し、プロダクト重視の活動を通じて、文法や構文の定着を図る活動について紹介する。

・教室内には必ず学力差があるが、学力差があっても同時に行える活動について提案する。

・ペアワークの意義:授業ではペアワークを様々な場面で使用するが、どのような利点があるのか、気を付けるべき点は何かについて研究結果などを通じて提案する。

・語彙処理の自動化:読解等の活動では語彙知識の自動化が欠かせないが、特に読みの流暢さを高める活動として、速読と多読について紹介する。特に多読についてはコストや教員の過重負担の問題もあるため、どのような学校でも実施可能な方法について提案する。

・近年、翻訳ソフトやAIなどの技術が急速に発達し、学習者が何をどの程度利用しているかは把握するのが難しい。特にライティングの課題を集めて添削や評価を行う場合には難しい問題が生じる可能性がある。使用を禁止しても実際には抜け道が考えられ、使用を前提とした対策が必要になる可能性がある。

(いわた あきら)