英語指導主事の指導助言の力量形成を促す持続可能な研修プランの開発

                           田村岳充(宇都宮大学)

1 はじめに                                                               本稿は,2024年度基盤研究(C)(一般)24K04024に本稿題目と同名で採択された研究計画を基に加筆・修正を行うと共に,研究の概要とこれまでの進捗状況を論述するものである。本稿執筆時点で,3年計画の第2年次の研究を進めているところであり,研究の経過と今後の展望についてまとめていく。なお,本研究には,東京学芸大学の臼倉美里,千葉大学の星野由子も共同研究者として参画している。

2 問題の所在

中教審教育制度分科会地方教育行政部会「地方分権時代における教育委員会の在り方について(部会まとめ)」 (2005) の2.3 (4) は,教育委員会事務局の体制強化や指導主事の配置促進を求めるとともに,指導主事が教育委員会の中核をなすと述べている(教育委員会の仕組みについては図1参照)。2003年度の文部科学省「地方行政調査」によると,全国の市町村全体の指導主事配置率は34.40%に留まり,その後2011年度に61.60%に上昇したものの,主に市町村合併の影響を受けた結果 (押田, 2014)であり,市町村の規模が小さくなるほど指導主事の配置は不十分なままである。また,指導主事の職務全体に占める行政事務の割合が7割を超え,本務であるべき教員への指導助言に専念できていない状況を明らかにした老山 (1996) や,重要施策の予算作成や議会対応への関与などが指導主事の勤務を多忙化させ,教員への指導助言に相対的に関われていないと述べた宮坂 (2017) などによって,職務の多様化・多忙化が指導主事の置かれている状況をさらに困難なものにしていることが分かる。中教審は2005年に「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」を答申し,教員の資質能力の向上のため,教員研修のさらなる充実と指導主事の配置促進の必要性を強調しており,教員の資質能力の確かな向上のためには指導主事の存在が欠かせないことが改めて確認されたと言えよう。

3 本研究の着想に至った経緯

旧教育委員会法第46条には,「指導主事は教員に助言と指導を与える。ただし,命令及び監督をしてはならない」と定められている。指導主事の本務は教員の指導助言であったが,1956年の地方教育行政の組織及び運営に関する法律の施行に伴い,「学校における教育課程,学習指導その他学校教育に関する専門的事項の指導に関する事務に従事する」とされ,事務官としての性格が強化された(久高, 1973)。

図2は,A県内全ての指導主事を対象とする研修に参加した152名に,自身の職務遂行状況について問うた質問紙調査の回答を集計,グラフ化したものである(鈴木他, 2019)。グラフから,職務の半分程度が事務処理や会議・打合に当てられ,準備のための時間を除くと,多くても2割程度しか実際の指導助言に当てられていない。図2からは,2で指摘した指導主事の職務の多様化・多忙化といった課題が見えてくる。多様な業務の一つ一つに適切に対応することは容易ではないが,新たに指導主事として教育委員会に配属される者にとっては,前年度末ぎりぎりまで学校現場で教員として勤務し,翌年度初日からは特段の研修を受けることなく新たに指導主事を名乗り,その任に当たることとなる。こうした指導主事を巡る困難な状況を改善できないかと考えたことが本研究の端緒となった。

4 関連する先行研究とその限界点

指導主事の果たすべき役割への意識に焦点を当てた先行研究には,奥山・廣瀬・山元 (2019) がある。奥山らは,B市教育委員会の学校教育課長・課長補佐・指導主事を対象とした質問紙調査を実施し,指導主事に求められる資質について尋ねた。その結果,指導助言よりも委員会内の業務遂行に関する資質を重視する傾向があることが分かった。奥山らの指摘から,指導主事として任用されてからは,事務的な業務に当たることに軸足が置かれ,指導助言の力量を高める機会が十分には得られていない可能性のあることが窺える。実際に,楠原 (2010)は,指導主事の教科指導力について,指導主事になる以前に各自が磨いておくことが前提となっていることを指摘している。こうした先行研究の調査から指導主事の業務は指導助言よりも行政事務に寄っており,それ故,専門教科の指導助言の力量は指導主事に任命される前までに高めておくよう暗に求められていることなどが分かった。このように,指導主事の業務が行政事務に偏る傾向のある中で,本務であるはずの教科の指導を行う力量をどれだけ高める機会が得られているのか,その実態を明らかにした先行研究はほとんど見られない。さらに,英語教育を専門とする指導主事(以下,英語指導主事)について特に焦点を当てたものはこれまで行われていない。

5 本研究に向けた準備:プレ研究

先行研究では明らかにされてこなかった,英語指導主事の業務の実態や研修受講の状況を捉えるための調査を,本研究に先立つプレ研究として実施した。

(1) 研究の方法と手続き
2022年1月末に,全国47の都道府県教育委員会及び20の政令指定都市教育委員会に依頼文書を郵送し,英語指導主事47名(関東・甲信25,中国・四国7,近畿5,中部5,九州・沖縄3,北海道・東北2)が依頼に応じ調査に参加した(Webアンケート形式,2022年の2月当初から3月末までの2ヶ月間の回答期間)。アンケートには,回答者の属性に関する設問,自身の英語の指導法・専門的事項等の力量についての自覚について問う設問,所属先で実施されている,もしくは,自主的に参加している研修について問う設問を配置した。研修の全体像の把握に加えて,経験年数(職歴)による回答傾向の違いや,個人内の回答比較の観点も加えて分析,考察した。

(2)結果と考察
①英語指導主事の業務
多忙感についての意見を求める設問がなかったにも関わらず,回答者の半数以上である47名中24名が自身の多忙について言及した。自由記述には「業務に追われ研修の時間が取れない」「勤務時間外にも業務がある状態で研修を加えることは難しい」といった内容が寄せられ,英語指導主事の資質や能力を高めるはずの研修を思うように受講できない現状も浮かび上がった。

②資質向上のための研修の実施状況
満足と回答したのは3名のみで,多くが研修への不満やその不足を感じていることが窺える。老山 (1996) や宮坂 (2017) が指摘しているように,指導主事が教科指導以外の広範に及ぶ行政事務等を行わなければならない状況にあることがその大きな理由の一つとなっていると考えられる。

③英語指導主事自身の教科指導力・専門性への自己認識・評価
英語の教科指導力全般について肯定的に捉えている傾向が見られた。具体を見ていくと,「カリキュラム・シラバス」の項目では全5項目中4項目で,「指導要領の解説等」と「英語の指導法」に関する項目ではそれぞれ4項目中3項目で経験年数による差が出ており,これらの内容は英語指導主事としての経験を積むことで力量形成ができ,自信を持てるようになる領域であると考えられる。しかし,指導主事は,着任後即戦力として高い専門性を発揮することが求められることから,経験を積むまで待つことが簡単にはできない状況があることも事実である。多忙の中でも学ぶことができる,実現・持続可能な研修のあり方について検討することは火急の課題であると言える。

6 研究の目的と方法

(1) 目的
これまで述べてきたような課題を踏まえ,英語授業への指導助言の力量を向上させるための研修状況や研修ニーズを把握するとともに,ニーズに即した,実現・持続可能な研修のあり方を検討し,実装することを目的とする。

(2) 方法
プレ研究として行った田村他 (2023) の結果明らかになった英語指導主事の勤務実態や研修の受講状況等を踏まえ,より詳細な研修ニーズを把握し,実現・持続可能な研修の開発,運用へと研究を推進するための協力者と協働しつつ,以下の6段階の手順で研究を進める。

①本研究への協力者たり得る人材の人選
②協力者候補への依頼
③依頼を受諾した協力者を訪問,実現・持続可能な研修に関するインタビュー調査
④英語指導主事の資質向上のための研修コンテンツの検討
⑤研修コンテンツの試作,プレ運用と,第三者(指導主事経験者)による評価
⑥研修コンテンツの改良,研修コンテンツの運用,実装

7 研究の経過

6(2)で挙げた方法に沿って第1年次から研究を進めてきた。まず①本研究の協力者たり得る人材の選定について,2024年5月に文部科学省で外国語教育を担当する教科調査官,及び国立教育政策研究所学力調査官のもとを訪ね,本研究への協力ができる候補として,英語指導主事の経験が豊富な優れた人材の紹介を受けた。その後,②協力者候補への依頼については,教科調査官から,本研究の概要の説明と協力依頼についての事前説明が行われた後,筆者からのメールによる正式な依頼を行った。候補者からは好意的な回答があり,所属するA県教育委員会の上席の許可を得た上で,オンライン会議システムを活用した顔合わせ,続けて,英語指導主事の研修状況等に関するインタビュー調査を実施した。

③依頼を受諾した協力者の訪問として,2025年2月にA県教育委員会のB指導主事のもとを,筆者と研究協力者2名で訪ね,実現・持続可能な研修に関してのインタビュー調査を改めて実施した。多忙な中でも適時,学ぶことができる方法として,オンデマンドで視聴できる映像化された研修コンテンツについて,検討する価値がある,との意見が寄せられ,その方向で検討をしていくことが確認された。また,B指導主事からさらなる協力者の推薦を受け,C県,D県,E県の英語指導主事,及び英語指導主事経験者3名に個別の連絡を取り,B指導主事同様,所属先の上席の許可を得,3名とも研究に参画することとなった。

④英語指導主事の資質向上のための研修コンテンツの検討は,3名の大学教員,B,C,D,E県の4名の英語指導主事(指導主事経験者を含む)がオンライン会議システムを使って複数回実施した。動画配信のプラットフォームであるYouTubeを使い,限定公開の形で公開をすること,動画へのリンクを知っている者のみがアクセスできるようにすること,視聴する際,2次利用を禁止し,部外者への公開をしないことなどのルールを設定した。その上で,動画上で視聴者に求めていくことなど,運用のための基本的なルールを検討するとともに,制作する初回のコンテンツとして,英語指導主事のニーズに沿って,授業研究会で英語指導主事が行う指導・助言の力量を高めるためのポイントについて扱うことにした。

⑤研修コンテンツの試作は,オンライン会議システムの録画機能を使い,上述の7名が互いの考えを交流させる対談を記録する形で制作した。録画された映像を筆者が編集し,発言のポイントを強調するためのテロップを加えたものを関係者が視聴し,改善が必要な箇所について共有し合った。それらを踏まえて再度編集し直したものを,全国の英語指導主事3名(ベテラン1名・中堅1名・経験1年目1名)が視聴し,フィードバックを返す段階を丁寧に踏んだ。3名から寄せられた評価の概要を以下に示す。

【よいと感じられた点】
<動画の構成や内容に関すること>
・動画の構成・進行・時間配分・テロップが見やすく内容理解を助けていた
・各先生方が学習指導要領を軸にしていた点が印象的
・指導助言に向けての視点(単元全体の構想,評価との整合性など)が明確だった
・指導案を見る際の実践的な視点・準備の仕方が学べた
(例:色分けによる指導案分析,事前準備の重要性)
<その他>
・現役や経験者による生の声が新任指導主事にとって安心材料となる
・雰囲気のよい対話が生まれており、リラックスして学べる
・オンデマンド形式で,時間の融通が利き,繰り返し視聴できるのがよい

【改善が必要だと感じられた点】 
<指導案の具体例の提示について>
・実際の指導案を匿名化して画面共有すると,より理解が深まったと思う
・色分けやマークの付け方など,実際のメモの様子を可視化してほしい
・「(メモで)指導案を汚す」具体例として,どんなメモを残すか見せてほしい
<動画の構成や内容について>
・動画のまとめ部分に,ポイントを整理したテロップを提示してほしい
・動画内での発言やテロップの色分け(発言者によるポイント/制作側の価値付け)を明確にしてほしい
・動画の長さを15~20分程度に収めた方が視聴しやすい
・「授業の見方」なのか「学習指導案の読み方」なのか,動画タイトルと内容の整合を取ってほしい
<その他>
・指導案の見方を整理した「チェックシート」があると便利
・見るべき指導案の項目(よい目標/そうでない目標の例)を具体的にしてほしい

寄せられた貴重なフィードバックを踏まえてもう一度編集し直したものを初回の研修コンテンツとした(⑥研修コンテンツの改良,研修コンテンツの運用,実装)。対談で話題としたのは,(1) 授業研究会に向けた事前の準備(指導案の受領から読み込んでの準備),(2) 授業研究会当日にどのように授業を観察しどのようなメモを取るか,そして教室のどこで観察し何に注目するか, (3) 事後研究会でのフィードバックの仕方,の3つである。
YouTube上に完成したコンテンツをアップロードし,リンクを知らせるリーフレットを作成するとともに,7名が全国の英語指導主事に個別に連絡を取って配布し,各地での共有を進めているところである。

8 今後の展望

本研究の目的は,英語授業への指導助言の力量を向上させるための研修状況や研修ニーズを把握するとともに,ニーズに即した,実現・持続可能な研修のあり方を検討し,実装することである。今後,英語指導主事の研修ニーズに即したコンテンツを制作,YouTube上にて公開していく作業を継続して行い,全国の英語指導主事に届くものとなるようにしていくことを目指す。コンテンツを視聴した英語指導主事からのフィードバックを丁寧に吸い上げ,それに応えていきたい。

引用・参考文献

老山由美 (1996). 「指導行政機能と指導主事の職務に関する一考察 (II 研究報告)」『日本教育行政学会年報』第22号, 59-70.

押田貴久 (2014). 「市町村教育委員会の指導行政に関する調査研究」『日本教育学会大會研究発表要項』第73 巻, 260-261

奥山茂樹・廣瀬真琴・山元卓也 (2019). 「指導主事の力量向上に関する基礎的研究」『鹿児島大学教育学部研究紀要教育科学編』第70号, 231-238.

楠原豊 (2010). 「県教育委員会との連携による教員研修の充実: 兵庫教育大学の調査研究報告」『鹿児島大学教育学部教育実践研究紀要』第20号, 295-304.

久高喜行 (1973). 「指導助言の概念に関する考察」『大分県立芸術文化短期大学研究紀要』 第10号, 1-6.

田村岳充・臼倉美里・星野由子 (2023). 「英語教育担当指導主事の業務実態と研修状況, 教科指導力等の自己認識―Web による質問紙調査より―」『関東甲信越英語教育学会誌』, 第37号, 15-28.

中央教育審議会 (2005). 『地方分権時代における教育委員会の在り方について(部会まとめ)』.

宮坂政宏 (2017). 「指導主事の職務の実際と教育実践に対する課題意識-大阪府教育委員会指導主事対象アンケート調査をもとに」『教師学研究』, 第20号, 17-25.

(たむら たかみつ)